白衣の帝王

□レギュラス
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「……そういえば、」
「ん?」
「普段あまり、見かけませんね」

―――そう、あの日以来、一度も見ていなかった。

「ああ、私転校してきたばっかりで」
「転校……?」

そんな話があったとは、一度も聞いていない。

「……もしかして、中等部の子?ですか?」
「いやいやいや、まさか。2年生だよ。高等部の」

思わず、目を見開いてしまった。
……高等部?ということは、

「僕の一つ、上の先輩……?」
「じゃあ君は、一つ下なんだ?」
「ええ、でも――見えませんね」
「え?」
「いえ、何でもありませんよ。」

あ、と先輩は声を漏らす。

「そう言えば君、名前は何て言うの?」
「僕ですか?」
「ほら、袖すり合うも他生の縁って言うじゃん?だから聞いておこうと思って」

にしし、と悪戯っぽく笑った。

「―――レギュラス、と、申します。」

レギュラスは、苗字はあえて言わなかった。
彼の兄となまえは同学年だからだ。

「レギュラ、ス?」
「短縮して、レギュでいいですよ。」

何気なく、サラッと言った。

「じゃあレギュね!私は、なまえ。堅苦しいのはダメだから呼び捨てで良いよ。あとその敬語もいらない」
「では―――なまえ先輩」
「(あれぇ!?)」
「……あ、すみません。クセなようなもので。」

レギュラスは申し訳なく思っているのか思っていないのか分からない調子で謝った。
なまえは「んー?」と首を傾げながらその表情を見た。

「それにしても、さっきは何をブツブツ言っていたのです?」

その台詞に、なまえは思わず口を両手で押さえた。

「え、ブツブツ、言ってた……?」
「はい。何かの呪文ですか」
「独り言です」
「ああそうですか」

なまえは再び本へと視線を向けている人物の表情を見た。

単調だなーこの人。
『しれっ』とした話し方。どこか別の所に居るような、淡々としていて、己の感情の半分も出していないような……。ゼンマイ仕掛けの絡繰りみたいな。あ、遠い未来でもしも人型ロボットが発売されるなら、こんな感じかな?うわっ、ちょっと面白そう。

「……今度は何考えてるんです?」
「人型ロボット」
「脈絡ないですね」
「え!?あるよ!?」
「いや、ないでしょ。」

レギュラスはチラリと横目で、なまえを見た。
実を言うと、あの日以来ずっともう一度会えないかな、と密かに思っていたのだ。
まさか、こうもずっと話すことになるとは。
レギュラスの表情が、ほんの少し和らぐ。

「ずっと気になっていたのですが……」
「ん?」
「何でそんなところに潜り込んでいるのです?」
「え!?あ、えっとー隠れんぼ、的な?」

なまえは誤魔化すように笑いながらそう言った。おかげで疑問形になってしまっている。
レギュラスは少し、首を傾げた。

「だからといってそんなところに潜り込むのですか?」

ふふん、となまえが得意そうな表情になる。レギュラスは頭にクエスチョンマークを浮かべる。

「うん。だって自分の部屋に居たら見つかりやすいからね」
「自白しているようなものですね」
「でしょ?」

なまえは声を弾ませて笑った。

「……でも、そろそろ閉館ですよ。」
「ゑ」

なまえは呆けた顔になった。

「ど、どうしよう私ここから出られないよ……!」

何を言っているんだこの先輩は。
どんだけ過酷なかくれんぼしてるんですか。

見れば、本当にただ事ではないような、泣きそうな表情になっていた。

―――え、
どんだけ過酷なk(略

「……そんなに、見つかるとまずいんですか?」
「なんていうか……シイタケとツキヨタケを間違えて食す位まずいです」
「相当まずいですね。」

※ツキヨタケは毒キノコです。食べると食後30分〜3時間後に、胃腸障害を発症し、
腹痛、下痢、嘔吐などの症状がでるよ。くれぐれも注意しましょう!


「しかしルールはルールです。ほら、行きますよ」

グイグイと手を引っ張るレギュラスに抵抗してなまえはやだやだと必死に首をする。
けれどもレギュラスはお構いなしに引っ張り出すと、「私はいっそここで風化するんだー!!」と嘆くなまえを無表情でズルズルと入口まで引きずった。……ホント容赦ないな。


「なに駄々っ子みたいな無駄な抵抗してるんですか。」
「無駄な!?」
「ええ、無駄ですね。」
「……だってほら!これじゃ丸見えじゃん!目立つじゃん!!」

なまえは命の危機を感じているため必死で言い訳をした。
なまえが指差した寮までの道は、舗装され整っているため、確かに身を隠すのは難しい。


「……仕方ないですね。」


見かねたレギュラスは、はぁ、とため息を吐いて―――



「ふぇっ―――?」




なまえの首に、自分のマフラーを巻いた。



「ぐえっ!」


……きつく。


「なんて声出してるんですか」
「ちょ、これ首絞まってたから。」
「大変ですね。」

絶対思ってないでしょ!?と確信しながら、なまえはマフラーを少し緩めた。

「でもほら、これで少しはバレにくくなるでしょう?」

クスリと、レギュラスが小さく笑った。

なまえは驚いたように目を丸くしながら、その表情をじっと見た。
レギュラスはそれに気づいたように、首を傾げた。

「?何ですか?」
「……いや、頼もしいな、って、」

なまえは相変わらず目を丸くしたまま、レギュラスを見つめている。
ストレートにも程がある台詞に、レギュラスの心臓が不規則な動きをしてトクリ、と跳ねた。


「……なまえ先輩が頼りないだけでしょ」
「んな!私一応年上だし!!」

フイと目をそらしては前を向き、例の如くしれっとした口調で言ったレギュラス。
数秒間動かなくなったかと思うと、再びなまえへと振り返った。

「――年齢なんて、関係ないでしょう?なまえ……」
「ふぇっ―――?」

そっと目を細めては一歩近づきながら、レギュラスが言った。
距離が近い。なまえは突然『なまえ』とよばれ、驚きながら、見上げた。

レギュラスは、数秒間なまえを見つめた。
ほんの少し、ほんの少しだけ
細められた目が寂しそうに見えた。

「……僕が言いたいのは」


「―――大切なのは年齢ではなくて中身でしょう、ということです。」

それだけ言って、再びレギュラスは前を向く。
なまえが数秒間、立ち尽くす。
そして、その言葉を何度か脳内で繰り返す。

……ん?
つまりそれは、
私の中身が幼いと、言いたいの……か……?

なまえの眉間に、皺が寄った。

「ちょ、どう言う意味だそれぇぇぇ!!!」
「そのままです。」

後ろで喚くなまえに、サラッとした口調でかえすレギュラス。


どうせロクな解釈してないんだろうけど、
つまり、僕が言いたいのは……


「(……僕を後輩としてではなく、少しは男として見てくださいよ。)」


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レギュラスのターン超なげぇ……!

レギュラスは全然ヘタレじゃないです。
密かに兄弟コンプレックス。
無自覚に立ち振る舞いが紳士的だといいなー
(……あれ?そんなシーンあったっけ?)
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