白衣の帝王

□リリー
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***



「リリー!?」


静寂を突き破る大声を、大人しく彫刻を彫っていた生徒たちは華麗にスルー。『なんだ、またジェームズか……』といった具合に。けれども先生はそういう訳にはいかない。一番前の端にある椅子から、最後列に座るジェームズを訝しげに見る。

……因みにジェームズ、なまえによって瞼に目を描かれ「起きてますが何か?」的なオーラを自然とはなっていました。気絶しているけれど不思議と姿勢は良かったので余計に。


ガバッと勢いよく頭を上げたジェームズに、隣で彫刻を彫っていたなまえはビクリと跳ねた。その反動で手を滑らせてしまい、作品である鳥の彫刻の頭がスコーン!と飛んで行く。なまえの目の前の席に座っていたリーマスは背後に迫るその彫刻を鋭く感知すると、カッと眼光を光らせ彫刻刀で跳ね返した。おかげでリーマスの隣に座る、シリウスの頭に刺さった。


N「ちょ、頭消し飛んじゃったじゃん!」
S「何か刺さったんですけど!?」
「そこ!私語禁止ッ!!」

今度こそ先生は注意した。
「えぇ!?」と声にならない声で叫んでは血を流して先生を見るシリウスを横目に、リーマスはプクっと頬を膨らましては口元を片手で押さえている。その仕草は何かをこらえているように見える。

S「(俺被害者だろ!?)」
R「(授業妨害はダメでしょ、シリウス)」
S「(だってなんか!何か飛んできたから!!)」

小声で話していたシリウスは、飛んできたものを見る。

……鳥の頭?そうか、これなまえの作品か。

クルリと振り返って斜め後ろに座るなまえを見た。

「(おい、これお前のじゃね?)」
「あー!!そr」
「シッ!声がでけぇよ!!」
「シリウスも今叫んでn――」
「そこ!!」
「「……すいません」」

再び注意された二人は、クールダウンして声のボリュームを下げた。

「(うわっ何で血とかつけるのさこの加害者め!)」
「(いや俺被害者じゃね!?)」
「(赤くなったじゃん!ここだけ赤毛みたいになったじゃん!)」
「リリーかい!?」
「「なんでだよ!!」」
「ちょっと!さっきからうるさいですよ!!」
「「「……すみません」」」

今度は3人で謝った。

「(もうすべての元凶ジェームズは黙ってなさいよ!)」
「(すみませんでーした)」
「(謝る気ないよな、お前。なんでヨガのポーズとってんだよ)」
「(じゃーもうこれあげるから静かにしてね。はい、リリーの頭。)」
「(その表現リリーに怒られるぞ!?ってか何で頬染めてんだよジェームズ目を覚ませ)」

赤く染まった鳥の頭の彫刻をやさしい目つきで眺めたジェームズをみて、シリウスはガクガクとジェームズの肩を揺さぶる。なまえは「だめ!彼の幸せを奪う気なの!?彼はね……目を覚まさないほうが、幸せなのよ……」と複雑な小説の登場人物みたいなことを言った。

小声でコソコソと話す3人の台詞を耳に、リーマスはあることを閃いた。
そして見る見るうちに腹黒い笑みを浮かべて口角を上げる。そしてくるりと、振り返った。

「でも、なまえの作品だけ壊れちゃったのって……可哀想だよね?」

リーマスは要らぬ助言をした。

S「(おま、何話をややこしく―――)」
J「(確かに……)」
S「(何で感化されてんだよ良く考えてみr―――)」
N「おっと手が滑ったー!」

なまえはスパァァァン!とシリウスの作品に彫刻刀を投げて真っ二つにした。

「ちょ、何やってんだお前ぇぇぇ!!」

ガタンと立ち上がったシリウスを、先生が睨む。

「いい加減にしなさい!!」
「ちが、――先生!コイツが彫刻刀刺してきたんです!」
「何やってるんですかミス・みょうじ!!」
「違うんです先生!さっきからシリウスが私の足踏んでくるんです!」

なまえは何故か凛々しい顔でそう言った。

「ちょ!?何サラッと人の所為にしてんだよ!!」
「いい加減になさいミスター・ブラック!」
「俺!?」

そこへリーマスが、にこやかにスッと手を上げた。こんなにもいい笑顔なときは大抵ろくなことが起きない。

R「先生ーシリウス君がうるさくて集中できません!」
S「リーマス!?ち、ちがっ!先生!コイツ!なまえがさっきから俺の背中蹴ってくるんです!」
N「はぁ!?何言って―――違うんです先生!」
S「お前だって俺に同じことしただろ!?」

「あーもう君たち!なまえ・みょうじにシリウス・ブラック!罰として放課後美術室にていのこりです!!」

酷い罪の擦り付け合いを見た。


***

放課後、なまえとシリウスは言われた通り美術室で居残りをしていた。

最初は「逃げようとか思ったら、ダメだよ」というリーマスの注意を聞かないつもりでいたのだが、「だめ!」となまえに強く背中を押されてしまい、結局聞くことになったのだ。

なまえがそんな行動をとったのは、別に誠意からの行動でもなければ、真面目な理由があるわけでもない。単に、遠慮がちなリーマスの表情を垣間見てしまったから、だ。
リーマスはそんななまえをみて、少し驚いた表情をした後、目を伏せて笑った。




シリウスが地味な作業に辟易していると、

「できたっ!!」

と高らかななまえの声が聞こえてきた。当然驚きながらなまえを見る。何故なら、まだ開始5分もたっていないからだ。

「早くね?―――て、」

シリウスはなまえの作品を見て、何とも言えない表情になった。
そこにあるのは―――鳥の首にある切断された部分を丸く整え、眼と口をちょんちょんと彫られたもの。

「……え、何だ、コレ。」
「やだなー猫だよ」
「猫ォ!?」

どう見ても猫には見えない。
胴体が鳥で首に顔がついている猫なんていない。

「いや、耳、ねぇし……」
「じゃあちょっと怪我した猫」
「……苦しいな。」

それでいいのか?という言葉になまえはうーん、と唸った。正直に言うと、っていうか言うまでもなくなまえは楽がしたいだけだった。楽して早く帰りたいだけだった。

「んじゃあこんな感じで耳付ーけてー」
「頭ちっさ!」
「……ちぇー分かりましたよ。もういっそダンゴ虫とか作りますよ」
「ただの丸だろ?」
「じゃあ等身大で作ってリアリティーを追求しますー」
「それただの塵じゃねーか!」
「よし!俄然やる気が出てきた!」

なまえは良く解らないポイントでやる気が出たらしく、早速作業に取り掛かった。シリウスも最後まで気に賭けながらも、自分の作業に戻る。

ダンゴムシを作るに為に、まずは大部分を削り棄てる。そして、直径5mmというハンパない位小さな球体を彫る―――が、

「(あっ!)」

ツルッと手を滑らせて、自分の指に彫刻刀を勢いよく刺した。うん、だって小さすぎるからね。
……なんてのんきなことも言ってられない。何故なら運悪く血管に当たったのか、プシーっと小さな血の噴水が出来ていたからだ。

急に大人しくなったなまえを不思議に思い、シリウスは思わずなまえへ振り返ったた。そしてすぐさま、顔を真っ青にする。

「―――ちょ、何やってんだ!早く抑えろ!!」

顔を青くしてフラリとよろめいたなまえを慌ててシリウスが支える。その過程で自分の作品を蹴っていたがお構いなしだ。

「桃源郷ってどこにあるんだろうね?」
「こんな時にに何言ってんだ!?」
「こんな時だからこそ、人は夢を見るのかもしれない」
「わかった!わかったからしっかり押さえろ!!」

腕の中で幻視してジェームズ並みにおかしくなった(笑)なまえを、シリウスは冷や汗を流しながら見た。

「ほら、ここをこうやって押さえて、そう、」
「……おぉ!」

血が止まった瞬間なまえは元気になった。シリウスが安堵する。

「保健室行かないとな」
「えー、いいよ。」

なまえはリドル先生のファン達に遭遇することだけは避けたかったのだ。

「手を放してみろ」
「ん?」

手を放した瞬間、また血が噴き出した。
サッと青ざめて、なまえはものすごい敏捷な動きで再び抑える。

「わかっただろ?大人しく行けよ」

ほんの少し意地悪に口角を釣り上げるシリウスに、なまえはブーと頬を膨らましながら、渋々頷いた。

シリウスも付いて行こうとしたが、なまえが「一瞬で帰ってくるからその間に終わらせておけば丁度いいんじゃない?作品」と提案したのでそうすることにした。
……因みになまえ、作品はあれでもう完成らしい。


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カオスな授業風景。

因みになまえの美術作品は
斬新かつ芸術的で前衛的だと何故か高く評価されました。

シリウスが困窮してた。

         
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