薄桜鬼前半

□悪気が無い事程‥‥罪な事は無い(元治元年八月)
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悪気が無い事程‥‥罪な事は無い1
(元治元年八月)


その日‥朝から屯所の中はなにやら異様な空気に包まれていた。


「失礼します。」

千鶴が声を掛けながら副長部屋の障子を開けると、そこにはすでに外出の用意を済ませた土方の姿があった。

「今から出掛ける。お前も来い。」
「え‥‥?」

いきなりの命令に千鶴は戸惑った。

《私が‥‥土方さんに同行!?》

組長格とであれば巡察に同行することを許されるようになったとはいえ、副長である土方とは恐れ多くて今まで一度も共に表に出たことは無い。
もちろん‥‥日ごろ忙しい土方が巡察に出ることはほとんど無く、彼が外に出るときは重要機密を孕んだ会合が多いせいもあるのだが。

《それに確か土方さんって‥‥今日は非番だったんじゃ‥‥?》

非番といっても‥‥土方の場合、休むどころか他の組長のように遊びに行く事も無い。
ほとんどが自室で仕事をしているか、情報をつかむべく山崎ら監察方を駆使して策を練ったりして過ごしていることが多い。
まぁ‥‥時折句作に励んでいるらしいという噂も沖田あたりから耳にしないではないのだが‥‥幸か不幸か千鶴はいまだその場面に出くわしたことは無い。

なんにせよ土方が普段夜遅くまで仕事をしているのを知っている千鶴は、非番のときくらいゆっくり身体を休めたほうがいいのでは‥‥?と思うのだが、その旨を土方に伝えるにはまだ勇気が足りない。
実際この部屋に訪れるだけでも‥‥かなりの緊張を強いられているほどだ。

そんな土方が非番の日にわざわざ千鶴を連れて表に出る。
‥‥それは公けに出来ないことなのかもしれない。

《‥あ‥っ!‥‥もしかして‥‥》

新選組には公けに出来ない事がある。
千鶴にはよく判らないのだが、どうやらそれに関係しているのが行方不明中の千鶴の父親綱道であるらしい。
もしかしたら、綱道の行方の情報を得て、隠密に事を運ぶために非番の土方が自ら出向くことになったのかもしれない‥‥と千鶴は推察した。
それならば綱道の顔をよく知るのは千鶴だけであるから、千鶴の同行も頷ける。

「早くしろ。置いていくぞ!」

土方に一喝されて‥‥転がるように慌てて土方のあとについて屯所の門を出ようとした‥‥そのとき‥‥
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