薄桜鬼箱舘時代

□変わるもの変わらぬもの(明治二年一月)
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変わるもの変わらぬもの1
(明治二年一月)


夜が明けた。

千鶴の朝が早いのは、彼女が小姓として仕える男が、朝から晩までほとんど休まず手を抜かない仕事人間だから。
千鶴が一番心を砕くことは、いかにして休ませるかということ。
普通に休んでくださいと言っても‥‥頑固な男は素直に聞くようなタマではない。
だから千鶴はさまざまな手を使って言葉巧みに休ませようと試みている。
最初こそなかなかその手には乗ってくれなかった。

相手はその昔‥‥鬼の副長と恐れられた男。土方歳三。
当然だろう。

だが‥‥江戸の女というひとつの共通点を根拠に、彼の姉と千鶴が重なって見えるらしく、どうも逆らえない気分になると‥‥本人自身が最近吐露した。
唯一頭の上がらない彼の姉のおかげで、最近では緊急性のない仕事の場合のみに限り、彼女の努力が実っている。

この二人の様子は‥‥周りからはどのように思われているのだろうか。
新選組時代からの仲間である島田あたりは、自分の身を省みない土方が‥‥千鶴のおかげで渋々とでも身を休めてくれることにたいそう感謝していることだろう。
それは、それ以外の者たちも同様に思っていたに違いない。
ただ‥‥弊害を敢えて言えば二人のやり取りを耳にする周りが、なぜか面映い気分になってしまうことだろうか。

男の形をしているが、彼女のその姿は女そのもので、最近ではすっかり一般の兵士からも見破られてしまっている。
このような男所帯に女がいようものなら、普通なら兵士共有の慰み者にされてしまうのだが‥‥。
それがそうならないのは、神か母御のように慕われる陸軍奉行並土方歳三子飼いの小姓であることもあるが、‥‥明らかに一方がひたすら想い慕い、一方も憎からず‥‥と思っているのがわかるからである。

本来ならそのような恋情話はご法度であるのだが‥‥。

支度の終えた千鶴が部屋を出て、一度冷え切った廊下に出ると、数名の男たちに出くわした。

「おはようございます。」
「あ‥ああ‥‥。」

バツの悪い顔をしているところを見ると、昨夜はこの雪深い中市街に繰り出して朝帰りした者たちのようだ。

「あの‥‥総督には内緒で‥‥。」
「はい?‥‥ああ‥‥判りました。」

千鶴がにっこり笑ったあと頭を下げて土方の部屋にノックをして入っていく。
それを見送りながら‥‥男たちは顔を見合す。

「‥なんか‥あの噂が信じられねぇな?」
「いや‥‥気をつけろ‥‥ああ見えてスゲェらしいから。」
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