薄桜鬼ED後

□鬼の年貢の納め時(明治四年四月末‥他)
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鬼の年貢の納め時(明治4年4月末‥他)1

この極寒の北の大地にようやく遅い春が訪れた。
山桜が咲き、徐々に緑豊かになりはじめるこの季節‥‥。
薬草となる植物が、まだ冷たく固い地面を突き破ってあちらこちらで芽吹き始めるので、薬売りを生業とする歳三にとってはありがたい季節‥‥といえる。
肌を刺すような厳しい寒さも、僅かずつだが和らぐおかげで畑仕事にも自然と力が入る。

今年は何を植えようか‥‥などと考えてから‥‥歳三は思わず苦笑した。
そんなことを考える日々を送るようになるとは‥‥。
逆にそういうものからの脱却を強く願い‥‥武士になることを目指していたのは‥‥そう昔の話ではなかったはず‥‥。

昔‥‥鬼と恐れられながら新選組を率いていたこの男は、今は殺伐としてない穏やかな暮らしに十分満足している。

そのような心境に至ることが出来たのは‥‥間違いなく常に彼に寄り添う千鶴の力が大きい。
一回り以上歳が違う上に育った環境も違うこの二人の心が、どうしてここまで互いを引き付け合うようになったのか。

歳三は裕福な豪農の家のたくさんいる兄弟の一番下として生まれ、幼くして両親と死に別れた‥‥いうこともあって、しっかり者の姉をはじめ周りにずいぶん可愛がられ成長した。
一方千鶴はといえば、兄弟は双子の兄がいたのだが、記憶も定かでないころに生き別れ、蘭方医の養父綱道に引き取られて、家業を手伝いながら家を切り盛りしてきた。

普段は見事な夫唱婦随っぷりをみせるのだが、いざというときは歳三でも逆らえない気になってしまうほど、彼女は江戸の女特有の強さを見せる。
鬼の副長という仮面を外せば実は末っ子気質‥‥という歳三と、しっかり者の千鶴は互いに運命の相手だったのかもしれない。

共住まいを始めて長らく清き仲だった二人だったが、去年の末にようやく身を繋げてからというもの、千鶴への依存度が見る見るうちに増していることを‥‥このごろ遅ればせながら自覚し素直に認め始めている歳三であった。
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