小説

□記憶の欠片、ですわよ
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「魔王の名はブラン…この世の始まりに関わり、全ての闇を生み、光の創造物にそれを分け与えた悪しき者…」
ウィードは、いつか吟遊詩人が語っていった女神と魔王の物語の一部を諳んじた。

それを聞く男はほくそ笑んでいた。

たったこれだけで少し力が戻っている……。
完璧じゃないか、俺!!

男がフハハハハハと悦に入っていると、その隣に佇むウィードは口を噤んでしまった。

「…………」
「……?続きは?」

あまりに沈黙が長引くので、男も不審に思い、ウィードに声をかけた。

「…………」
それでも沈黙が続き、だんだん男の威圧感が増してくる。
「いや……あの……あんまり……覚えて、ない」
「ああ゛っ!?」
男は、微妙に引きつった顔をしていたウィードの胸倉に掴みかかった。
ウィードはもう、ごめんよ〜、バカなんだよぉ〜〜〜〜等と半泣きである。
ウィードが本格的にこの男を助けたことを後悔していると、ガサガサと木々の揺れる音がした。

「!」

眉を吊り上げた男と、顔面蒼白のウィード、二人が見上げた樹上からは人影……。
チェグだ!

「ギャーーッ!来たーーッ!死ぬーーッ!」

反射的に絶叫するウィード。
それに対して反射的に裏拳を叩き込む男。
五月蝿いのは好きでないようだ。

だがそんなことはチェグにとってはどうでもいい。
「覚悟!」
「ふん、死にに来たな」
カッと目を見開いたチェグが両手の間に光の球を作り出した。
対する男も開いた手の平に不穏な魔力を集中させる。
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