小説

□旅立ちは矢の雨
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穏やかな光降り注ぐ農村の朝。
「あ〜あ…できましたよ〜〜じゅんびぃ〜〜〜〜」
家の前に腰かけて、どーせ物無いしぃ?等と悪態をつくウィード。人外軍団への精一杯の抵抗だ。
すかさずリリスが「何ですかその態度は!?」と反応する。
後ろではブランがにこやかに「リリスさん、僕もできました!」と報告している。

仏頂面でリリスに目を向けたウィードは、彼女が見慣れない衣服に身を包んでいることに気付いた。
巻きスカートの腰に帯を巻き、上着をその中に入れる…パーツ自体はよくある服なのだが胸元が全開である。
動作によっては丸見えになることもありそうだ。
「何、その服」
その格好に喜ぶよりも不快感をあらわにして、ウィードが言う。あんなものは少なくともフェアのものではない大人用の服だ。
「あんなちんちくりんの服、着ていたくありませんわ」
「そーいう問題じゃない!!」
恥じらって隠すどころかつんとして胸を張って見せたリリスにウィードが怒鳴る。
「その胸んとこ、どーにかならないのかよ!」
「見なければ良いんです。スケベ!」
怒りのあまり裏返った声で叫びだしたウィードに応じるリリスも喧嘩腰だ。
互いに罵り合いながら歩く二人の横で、ブランは「男らしいですよ!」などとフォローらしき言葉をかける。
どうやら、ウィードの言動は基本的に善意的に解釈するらしい。
あまりにニコニコとしながら懐かれて、ウィードの方の怒りと拒絶の勢いはかなり削がれてしまった。

和やかさを取り戻して山道を行く一行は、じっと樹木の上から見つめる目にはいまだ気付いていない。
「いた……」
木の上からブランを凝視しながら、小さく呟いた少年は、静かに次の枝へと飛び移った。
続いてもう一つの影が木の枝に現れた。今度は少女だ。
あいつは……!
先ほど飛び去った少年の後ろ姿を見、少女は何事か考え始めた。
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