小説

□旅立ちは矢の雨
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広大な白い白い建物、白き衣を纏った女性が泣いていた。白い空間を取り巻く魔力の輪が、しゃくりあげる声に応じるように揺らめいた。
「チェグ……」
白き光、この世界の生命の母である女神は清浄に透き通った床に膝をつき、頬を濡らしていた。
その傍らに立つ、女神同様に色素の薄い、しかし背の高い女性が口を開いた。
「あの者の力量では仕方の無い事です」
女性は女神の隣に立ったまま、殆ど表情のない顔で、仄かな労りの色を浮かべた瞳を女神に向けた。
「私は最低の女ね。判り切った事なのに……!」
自嘲するように言った女神の頬に、女性は跪いて白い指を伸ばし、涙を拭った。
そして表情の薄い目で真っ直ぐに女神を見つめ、言う。
「貴女の命は我等が喜び。チェグは幸福でした」
「でも……私は安堵さえ覚えて!!」
耐えかねたように頭を抱え、叫ぶ女神にそれ以上応じぬと言うように、女性はすっと目を伏せ女神から離れた。
「それも、いずれ消えます。次の者を放ちましょう」
いまだ涙を流す女神に、女性、ツルは背を向けた。
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