小説

□記憶の欠片、ですわよ
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チェグの光球が地面を抉った瞬間、男は上方へ身を翻していた。
そして着地の瞬間、腕に纏った魔力の渦をチェグに叩きつける。
しかし、地面が裂かれる頃にはチェグもまた地面からはなれている。
どちらの攻撃も当たらぬままに戦いが続くなか、男が宙に逃れんとするチェグの足首を掴み放り投げる。
結局、チェグは素早く受身を取った為、投げ技自体に効果はなかった。

「さてと…お前にももう飽きたな」
「ならば、お前が消えろ!」

男の不意の一言が、膠着状態を破る引き金となった。
キッと男を睨み、両腕に雷光を纏うチェグ。
体術では徒に時間が過ぎるのみ、一気呵成に大技でけりをつけようと言うわけだ。

「ふん、憐れな……」
あたかも抵抗するつもりのない様に立っていた男が相手を嘲笑い、髪がなびき始めた。
言葉が切れる頃には彼の周りを強大な魔力の渦が取り巻いている。
恐ろしく術の発動が速い。
未だ、力を蓄えている最中のチェグの前、余裕たっぷりに苦笑する男が腕を掲げると、発生した魔力の刃は無慈悲にチェグを細切れにした。

勝利した男は、その余韻に浸るでもなく、己が身の無事を喜ぶでもなく、もはや崩れ、消え行く運命にある少女の骸に背を向けた。
この残酷な光景も、勝利も、彼の心を動かすには足らぬらしい。

危険は去った、しかしこの先、いかように動くべきはわからない。

男は気だるげに目を伏せたのだが、次の瞬間その目が見開かれる。
男の心臓が一つ、常よりも強く打つ。
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