天使系小説

□蠅の街 後日談
2ページ/4ページ

まさに冗長かつマンネリなノロケ話が幕を開けようとしたその時に、丸い方の肩が叩かれた。
「お嬢さん」
細身のアニタがあんぐりと口を開けてキャシーの肩の向こうを見ている。
振り返るとそこにはキャシー17年の生の中で初めて見る美貌。
「ダイエットに興味はあるかね?」
天上から降り注ぐかのような美声、目の前の男はキャシーの『守備範囲』は越えた年齢に見えたが、それでもキャシーをうっとりさせるには十分な要素を備えていた。
…だが、台詞はキャッチセールスか何かと容易に判断できるものだ。
もしかしたら、ドラッグかも…アタシはそんなに飢えてるように見えるのかしら…現実って厳しい……。
「アタシ、お金ないよ?」
不貞腐れて言ったキャシーの目には驚いたように目を丸くする男の顔が映った。
「お金も運動もいらないし、いくら食べても大丈夫だよ。ただ条件があるとしたら…」
ほら来た!ちょっとホッとした様子のアニタを横目で睨みながら、キャシーは溜め息を吐いた。
いいわ。アンタの時間を無駄遣いさせて、眺めるだけ眺めて断ってやるんだから!
腹を決めたキャシーだったが、彼女にウィンクしながら相手が紡いだ言葉は、例え地球が割れたって絶対に有り得ない筈のものだった。
「君の魂をくれること!許されるなら、君に口付けさせて欲しいな」
トンっと鎖骨の辺りに手袋をした指を突きつけられて、キャシーはエロースの矢に射抜かれたようになった。先程までの疑いはどこへやらだ。

ナ…ナンパ!?
愛の気配に高鳴る胸が、キャシーの顔を林檎のようにした。
男は微笑んでキャシーの頬に触れようと手を伸ばす。
その時だ。
「浮気するつもり?」
「え?」
夢のようにしなやかな腕が、男の薄手のコートに包まれた腕に絡み付いた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ