今夜はから騒ぎ
□第六話
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仁王が再び目覚める頃には夜が明けていた。
「…おはようございます」
「…?」
頭上から声が降ってきて、視線を天井からそちらに移すと 柳生が心配そうに仁王の側に座っていた。
「傷はもうだいぶ閉じましたね。新月とはいえ、銀狐の力はすごい」
「…知っとるんか、俺の力のこと」
柳生は傍らに置いてあった薬缶から薬湯を注ぎ、起き上がった仁王に手渡しながら言った。
「土蔵の中の文献を精市君に頼んで読ませて頂きました。…まだわからないこともありますが、あなたの力のことは大体」
「…そう、か」
仁王の顔は安堵と不安で複雑だった。
柳生が調べた通り、月の満ち欠けで仁王の力のバランスは変わる。
満月に近付くにつれて強まるのは銀狐の治癒や変化の力。
新月に近付くにつれて強まるのは雪女の氷と雪の力。
弱まったり強まったりするものの、混血の持つ力は時に強すぎて周りを傷つける。
「…柳生さんは、ええの?」
「…と言いますと」
「俺が、この家にいてええの?精市や柳生さんに守られて、ええの…?」
いつしか仁王の白い頬には涙が一筋流れていた。
布団をたくしあげて顔を隠すものの、その手は柳生によって取られてしまった。
「…守らせて、下さい」
「…ぇ」
顔をゆっくり近付けて額に軽く口付ける。
仁王は顔を真っ赤にさせたが、柳生は気にせず優しい笑顔で続けた。
「あなただから私はここに連れてきました。あなたのことだから、文献を調べあげて知りたいと思いました。あなたのことだから…守りたいと思ったんです。…これは、一目見たときに私があなたに見惚れてしまったから…これが私があなたを守りたいと思う本当の気持ちです」
思えば、初めて見たときから惚れ込んでいたのだ。
柳生は優しく仁王の身体を抱き締めた。
「…嬉しい」
仁王はにこりと純粋な笑顔を見せた。
しかしその顔にまた影がさす。
「…少し、待って欲しい」
仁王はぽつりと呟いた。
「…いつまでも待ちます」
柳生も優しくささやいた。
もし叶うのなら、
あの人 と決別を。
仁王は固く目を閉じた。