今夜はから騒ぎ

□第五話
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森の一番深いところに一つの神社がある。

消えた幸村が現れたのは、その神社だった。

ゆらゆらと鳥居を抜け、顔を歪める。
その目尻からはとめどなく涙が流れていた。


「執着…愛情…嫉妬…羨望…ものすごい量の邪気が…俺の中に…」

やっと本殿に辿り着くと、中から二人の狛犬が飛び出してきて 幸村を慌てて支えた。


「大丈夫かよぃ!?精市くん!」

「今すぐ神の間に運ぶぞ!」

二人の名前はブン太とジャッカルといって、幸村がもともと住んでいたこの神社を守っている狛犬だった。


幸村は安心したように目を閉じ、そのまま意識を失ってしまった。





屋敷の裏庭で真田は刀を見つめていた。

刀は邪気を感じ、妖しく光っている。

幸村を想い、真田は目を閉じて刀を振った。

刀が煌めいたかと思うと、一瞬空間が裂けて、一人の少年が見えた。

「…誰だ」

呟くも、少年は笑みを浮かべながら消えていった。






「…」

「良かった…マシになったか?」

「ジャッカル…」


幸村は神の間に寝かされていた。

優しく支えられ、身体を起こす。


一ヶ月前に来たときと変わったところは無いと確認して、幸村はジャッカルの方を向いた。

「…今までで一番…すごい邪気の量なんだ」

ジャッカルは幸村の端正な顔を見つめて、深く息を吐いた。


「…何で、力を使わない?」

低い声で尋ねると、幸村はただ辛そうに笑うだけで何も答えなかった。


そこにもう一人の狛犬、ブン太が片手に鍋、もう片手に巻物を持ってやってきた。

「良かった…!比呂士の封印もあるから邪気は出来るだけ取り除かないと」


そう言い、鍋の薬を幸村にゆっくり飲ませ 巻物を幸村に持たせて出ていった。

ジャッカルも巻物を握る手に 邪気を祓う印を書いて、神の間から出ていった。

一言、

「頑張れよ」

と囁いて、幸村は一人になった。


「弦一郎、俺は…」

幸村は目から涙を流し、巻物を握る手に力を入れた。


清い水が流れ、草花が茂る綺麗なこの神の間で ただ幸村は泣いていた。

「…雅治…」

感じる感情は全て仁王に向けられている。

「うぁ…」

泣きじゃくる幸村を、ブン太とジャッカルは辛そうに見つめていた。

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