勇者だって人間だ
□第五章
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「“元仲間だ”、と。ディンは確かにそう言ったのですね」
「は、はい!」
「そしてその男は庭師のようだった、と」
「そうです! こーんなでっかいハサミを持ってたんです!!」
「なるほど」
アルテミスを先頭に、アレク、オウルの3人は宿を出て、ニケの捜索へと向かっていた。
あてはないはずだが、庭園を突き進んでいくアルテミスの足取りに迷いはない。
始めのうちは観光客で溢れかえっていたが、中心に位置する王の私有地へ近づくにつれ、人の姿はまばらになっていった。
「いいの?」
「はい? 何がでしょうか」
「待ち合わせ」
「ああ、師のことなら心配は要りません。置き手紙をしましたし、それに……」
ふと、アルテミスが足を止める。
道端で少女がうずくまって泣いていた。
「どうしたっーー」
「私が行きます」
すかさず駆け寄ろうとするアレクを、アルテミスが制する。
らしくのない行動にアレクが戸惑う間に、アルテミスは少女に近づいた。
「こんなに人気のない場所でどうなさいました?」
「お父さんとはぐれちゃったの……」
「そうですか。では、一緒に探して差し上げましょう」
アルテミスがしゃがんで手を差し伸べたその時、少女の手で刃物がひらめいた。
「ファルトさんっ!」
いち早く気がついたアレクが呼びかけるも、避けられる距離ではない。
少女ーーグロリアの一突きがアルテミスを刺そうとした寸前。
短剣は、ガキンと派手な音を立てて弾かれた。
何が起こったのかと戸惑うグロリアは、アルテミスの前で展開されたシールドに、大きく目を見開いた。
「やるじゃん」
「えっ、いや、僕じゃないです!!」
「…………褒め損」
「ううっ、そんな失望した目で見なくても! それより誰が……?」
アレクはきょろきょろと辺りを見回すが、人影はない。
そこへ、立ち上がったアルテミスは示す。
「上です」
顔を上げれば、さらなる驚きが待っていた。
人が、空中で座っている。
その人は注目を集めていることに気がつくと、まるで階段でも下るかのように空から降りてきた。