勇者だって人間だ

□第五章
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探していた後ろ姿をバルコニーで見つけ、頬が緩む。

風になびく豊かな黒髪。

圧倒的な力持つようには見えない、華奢な身体。

まさか自分が結婚するとは思ってもみなかったが、今では彼女がいない日々など考えられない。


「ここにいたんだね、ロゼッタ」

「ええ。ここからは人々の様子がよく見えますから」


魔法を習得できるという噂を聞き様々な国から移ってきた住民は、まだ発展途上にある街をより良くしようと忙しなく動き回っている。

まさか自分が人の上に立つことになるとは。

ロゼッタと出会ってから、本当に予想外のことばかりが起こる。


「……君のおかげだ。君がいなければ、僕に未来なんてなかった」

「ふふっ、何度も聞きましたよその言葉」

「ああ、何度でも言うさ」


妻が、友人が、慕ってくれる人々がいる。

そんな今がどんなに幸せなことか。

ただ、自覚するたび不安になる。

この幸せが壊れる日はいつか来る。

今が幸せなほど、そのときは……


「そういえば、何か用があったのではありませんか?」

「え、あ……ああ、そうだ。レヴィが探していたよ。魔法の授業に関して相談があるって」

「おや、ではすぐに行きましょうか…………アリア?」


僕に向かって手を差し出したロゼッタの表情が曇る。

何でもないよ、と嘘を吐く僕の顔はちゃんと笑えているだろうか。

繋いだ彼女の冷たい手を、決して離さぬよう強く握りしめた。










〜Chapter6〜
――荊棘

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