勇者だって人間だ
□第四章
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no side
「転移魔法なんて便利なもの、どうして今まで使わなかったんですかっ!?」
アルテミスを担いだディンとアレクは、森方面への道を猛烈な勢いで走っていた。
たまにすれ違う人が何事かと振り向くのを気にもせず。
そんな中、アレクがアルテミスを問い詰める。
「どうして、と言われましてもね……」
「だって、ワープできるなら国と国の間歩くことなかったじゃないですか!」
「クハッ……じゃあオレらは今、どうして走ってるんだろうな」
ディンが笑いながら呟く。
アレクはその意味を察することができずに、眉根にしわを寄せる。
続けて口を開こうとしたディンを、アルテミスが止めた。
「おや、それならそうすれば良かったですねぇ……五体満足で転移できないか、転移先で私が事切れていても構わないのならば」
にこーっと笑うアルテミスを見てアレクは固まる。
「そ、そんなに体力消耗するんですか!? ディンさんに運ばれてるのはてっきりファルトさんの足が遅いからだとおも――」
「胴体だけでもニケ達の元へ転移しますか?」
「結構ですっ! ごめんなさぃぃいっ!!」
三人が過ぎた後には、アレクの叫び声が尾を引いた。
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side Nike
飛びかかってくるウサギを斬り伏せつつ、森の中を進んでいく。
辺りは空が見えないほど木々が生い茂り、昼間にも関わらず薄暗く気味が悪い。
この森には多種多様な魔物が生息しているはずなのだが、今のところイーターラビット以外の姿を見ていない。
ウサギの大群に恐れをなして隠れているのか。
「おい、あっちにいたぞ!」
ルイスさんが槍斧で示す先で、長い耳が茂みからぴょこぴょこ出ていた。
邪魔な枝や草を斬り払いながらそちらへ向かうと、俺達に気づいていなかったらしいウサギは驚いて逃げる。
見失わないようにと走り出そうとしたとき、前を行っていたルイスさんの足が止まった。
「どうかした?」
ウサギのいた茂みの向こうは、少し開けた場所になっていた。
ルイスさんはじっと下を見つめている。
視線を追うと、そこには大きな魔法陣。
地面に描かれたそれは、暗い森の中で淡く不気味に輝いていた。