勇者だって人間だ

□第四章
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「きゃっ! ウサギが出てきたぁ!?」


魔法陣を見ていると、唐突にその上にウサギが出現した。

何の前触れもなく現れたその様子は他に何とも言いようがない。

それにしても……

悲鳴はやけに乙女だな。

そんなルイスさんは、ウサギを倒すべく魔法陣に踏み込もうとしていた。


「ルイスさん、待って」

「ああ? 何だよ」

「わかったんだ、これがなにか。とりあえず今は踏まない方がいい」


話してる間に近づいてきたウサギの首をルイスさんの斧槍がはねる。

忠告通り、魔法陣の前で止まってくれていた。

俺も魔法陣に近づくと、土に刻まれたその外周を足で踏み消す。

魔法陣は光を失った。


「結局どういうことだ、これ」

「転移魔法だよ。他の地域に生息しているイーターラビットをこっちに送っていたんだ」

「んなの聞いたことねぇよ」


同じ魔法陣を書くことで、二つの地点を繋げる。

この魔法技術はまだほとんど知られていない。

お前には使えないけどこんな応用魔法がある。

と、師がドヤ顔で話してきたなんてアーティがぼやいたのを聞いたくらいで、仕組みなどは俺もよく知らない。

そんな魔法を使うなんて、犯人は何者なんだ。


「おめでとう勇者サマ。無事、事件解決だぁ」


気のない拍手と共に、上の方から声がする。

見上げると、いつの間に現れたのか、真っ赤なローブを着た男が木の枝に座っていた。

血のような色をした趣味の悪いローブは、前が見えているのか不思議なくらい男の顔を隠している。

あからさまな悪役とは、こういう奴のことを言うのだろう。


「お前は何者だ」

「実に率直な質問だなぁ。答えてあげたいところだけどぉ……一匹、余計なのがいるようだ」


その頭がルイスさんへを向く。

同様にルイスさんを見ると、凍りついたように固まっていた。


「テメェは……」

「え、知り合い?」


仮面に隠れていない部分から覗く顔色がやけに悪い。

青白い頬を、汗が伝っていた。


「“ウインドソード”」


ローブ男の手に薄緑の短剣が握られる。

ありえない詠唱の短さだった。

一体なぜ……

いや、今は悠長に考えている場合ではない。


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