勇者だって人間だ
□第二章
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「うわぁあっ!?」
ズサアッ、と突然アレクがずっこけた。
それも、なにもないところで。
さらに言うと顔から。
どんくささのスリーコンボだ。
「大丈夫……じゃないよね」
手を貸せばフラフラと立ち上がるが、顔が泥と血でグチャグチャになっている。
「ほら、これで顔を。そこではありません、もっと右、いやもう少し左に……もういいです。私が拭いて差し上げます」
ハンカチでアレクの顔をぬぐってやるアーティ。
お前は母親かよ、なんて思うがまま口にしたらどんな災厄が降りかかるか分かったものじゃない。
アレクの見た目は大分マシになったが、頬に痛そうな擦り傷ができていた。
「ケガ、早く治したら」
癒術師なんだし、と言えばなぜかビクッとするアレク。
モジモジし始めたかと思えば、なにかをモソモソと話しているが上手く聞きとれない。
「ぼ、僕…………です」
「ん? ゴメン、もう一回言って」
消えてしまいそうな声。
仕方ないから、聞き取るために耳を近づける。
が、おい待てよ。
すーっと大きく息を吸う音が……
「あの、僕……ぼく………回復魔法なんて使えないです〜っ!!」
逃げること叶わず。
耳元で喰らわされた大音量の涙声に、意識が遠退いた。
〜chapter2〜
――謀略