勇者だって人間だ

□第四章
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「ねえ、オウル。本当に良いの?」

「別に」

「そう……じゃあ、行こうか」


あれから三日ほど休息のときを過ごし、体調はもう万全だ。

アーティの師との約束もあり、そろそろヴァロアを出ようということになったが……

また女帝に難癖つけられると面倒くさい。

よって、辺りが暗くなってから出発するという夜逃げ的手段をとることにした。

それは別にいい。

問題はアリシャさんとサーシャちゃんだ。

どうもオウルはまだあいさつを済ませていないらしい。


「次はいつ帰ってくるかわからないというのに。絶対に後悔しますよ、オウル」

「別に」


何度呼びかけても、オウルは別にの一点張りでゆずらない。

仮面のような顔からは何も読み取れないが、その声はどこか辛そうだ。

短い間ではあったが、オウル宅はとても居心地が良かった。

そこが実家のオウルにすれば、家族に会うと決意が鈍ってしまうのかもしれない。


「会わせる顔がない」

「え?」

「少しだけ思い出した」

「思い出したって……記憶を?」


思いがけない言葉に聞き返せば、オウルはこくりとうなずく。


「黒髪の大切な人、重ねてた」

「えっと……ごめん、何言ってるのかわからないんだけど」


聞き返したものの、オウルはそれ以上何も話そうとしなかった。

結局引き返すことなく進み、簡易的に修繕された門へ着く。

見張りのヴァロア兵を無理矢理言いくるめて門を開けてもらい、一歩外へ踏み出したその時。


「オウルにぃーっ!」


聞こえた声に振り返れば、サーシャちゃんとアリシャさんが息を切らしながら走ってきた。


「夢?」

「いやいや、現実ですよ! オウルさんったら夢かと思うくらい嬉しいんですかぁ?」

「違う」


アレクが大ボケをかましているが、恐らくサーシャちゃんが見たのだろう。

夢見の力で俺たちがヴァロアを発つのを。


「オウルにぃ! ぜーったい無事で帰ってきてね!!」

「寂しくなったらいつでも帰ってくるのよー。あ、もちろん皆さんもねー」


まるで今生の別れのように号泣するサーシャちゃん。

その横でアリシャさんは朗らかに微笑んでいる。


「行ってきます」


囁くようなオウルの返事は届いたのだろうか。

ただ、振り返る度にサーシャちゃんとアリシャさんがこちらへ手を振っているのが見えた。

姿が見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも……。








――to be continued
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