勇者だって人間だ
□第一章
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心に傷を負った気がするが、なにはともあれ脱出路は確保した。
向こう側が見える壁を前に、別れのあいさつをしようと振り返る。
「昔のお偉いさんに怒りのあまり死ぬ……憤死という死に方をした方がいるらしいですよ。体調には気をつけてくださいね、愚王様!」
「王よ、貴方が愚王の名に恥じぬ非常に愚かな人物だと実感できる良い機会でした。それでは、失礼致します」
「えっと、あの、その……ごめんなさいっ!」
「さらば、超愚王」
「ああ、そうそう。魔封石と一緒に金目のものいくつかもらったんで、そこんとこよろしく頼むぜ」
人のこと言えた義理じゃないが、ずいぶんと言いたい放題だな……
フラフラしながらも少しずつ立ち上がり始めた兵士、そして王へ、とびっきりの笑顔で片手を挙げる。
「では、お達者で!」
王が兵士を叱咤する声を背に、駆け出す。
穴を抜けると早速兵士達と鉢合わせしてしまったが、まあ問題ない。
風の剣を出現させれば、それだけで兵士は後退りした。
更にその剣でもって目の前の壁を切り崩せば、追って来る者などいない。
いい歳した大人が口をポカンと開けて並んで棒立ちする姿はあまりに情けなく、こみ上げてくる意地の悪い笑みが抑えきれない。
この調子なら、すぐに外へ出られるだろう。
「弱い者いじめは程々にしろよ、勇者様?」
ニヤリと笑うディンへ同じく笑い返す。
旅が始まる高揚感に、胸が躍っていた。
この先に何が起こるかは分からない。
最悪死ぬかもしれない。
だが……
いや、だからこそ、楽しんでやろうじゃないか。
俺達の旅を。
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まだ、何も知らない。
真実も。
虚偽も。
希望も。
絶望も。
まだ、まだ、まだ……。