□White Lily
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毎年の事ながら、この時期になると軍の中でも甘い香りが漂い始める。
誰に渡すだとか、去年はいくつ貰えただとか、軍人と言えど浮足立つ気持ちは普通の人達と同じなのだ。
正直言って、私はこの日はなるべく人前に出たくない。
と言うのは、仲間や部下達から強請られるのが嫌なのでは無い。
私が生まれ育ったイギリスでは男性が女性に贈るのが普通だったのだが、日本では女性が男性にチョコレートを贈るのが普通だそうで。それも最近は本命チョコや義理チョコに加えて友人同士で贈る友チョコ、男性から女性に贈る逆チョコ等なんでもアリな感じになってきている。
いくら世界が違うと言えど、沢山の世界から情報や文化が入ってくる天界や神界にもバレンタインと言う習慣は存在する。勿論その傾向は軍部にも入って来ている訳で。しかもその方式は日本のそれと同じなのだ。
私は料理やお菓子を作るのは得意だし、渡すのは別に構わないのだが……
問題は、受け取る方なのである。
神界軍だけに入っていた時はまだ良かった。だが天界軍に入ってから、と言うよりも神将となり五大守護神の仲間入りを果たしてからと言うもの、告白されるのは日に100人を軽く超える事もある。それも男性からならまだしも、女性からの告白も多くあるのだ。
それがバレンタインともなれば告白は出来ないけれどせめてチョコだけでも、と男女問わず渡されるチョコレートの数は途方もない量になる。特別な日だからと言う理由で今時古いとも思われる様なラブレターの山もチョコと共にうず高く積み上げられ、おまけに少しでも部屋を出て出歩こう物なら直接チョコと告白のプレゼントが渡されるのだ。それも1人や2人では無い。
渡してくれる気持ちは嬉しいし、告白も渡されたチョコレートも蔑ろには出来ずに毎年そのチョコの行方に悩む事になるのだ。
――そして、今年もその季節がやって来た。