Heroic Legend -終章の白-
□第100話 Nの城
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『もっとだ…』
暗闇の中から声が響いた。
『もっと……もっと……力を…』
声の主は何を求めているのだろう。
ただ渇望するように、苦しげな呻き声を絞り出している。
『みずみずしい……若い……肉体を得なければ…』
肉体? 身体が無いのか…?
『こんな身体では…力が出せぬ……もっと強い…………何者をも闇に堕とす程の力…チカラ……カラダ…』
ズル…。
何かが足を這い上がってきた。
その生き物のような温もりの無い、ヌメリとした生暖かい感触と生臭さに不快感を感じる。
『寄越せ……ヨコセ…』
気持ち悪い感触から逃れようともがくが、それはお構い無しに身体を這い上がる。
恐怖で身がすくみ、声も出せずにいると、それはとうとう首まで這い上がってきた。
必死に目をそちらへ向けると、それの正体が見えた。
…真っ黒いタールのような物体に、ニタリと笑う白い歯が見える口が見えた。
『オマエダ』
ケタケタと嬉しそうに笑うソイツの声をバックに、ボクの意識はゆっくりと飛んでいった。
†
「ファッ!?」
奇声を上げて飛び起きた場所は、以前から宿泊しているこぢんまりとした部屋だった。
横にはよだれを垂らし、あどけなさが残る表情で眠るポケモン達がいる。
「何だ…夢か…」
慌てながら身体やベッドの中を見てみたが、あのタールみたいな怪物は何処にもいなかったので、ホッと胸を撫で下ろす。
「しかし、またこんな朝方に…」
蛍光塗料で装飾された壁掛け時計を眺めると、まだ朝の4時を回ったばかり。
二度寝をする気分にもなれなかったので、とりあえず普段着に着替えてそっと部屋を抜け出した。
宿泊施設の外に出ると、肌寒い風が皮膚を刺すように吹いていた。
「寒…今日は冷えるな…」
いくらボクでも両腕をさするように身を縮こませながら、朝方でもまだ真っ暗な夜道を歩き出す。
「あの夢の中の怪物……確か最終試練の…」
歩きながらフッ…と思い出し、眉をひそめる。
あの嫌らしく笑う口と姿には覚えがある。
前にアーテルに取り憑いた怪物と全く同じものだ。
「けど、アイツはアーテルによって倒された筈…。なのに何で……」
夢…にしてはリアル過ぎだ。
あの怪物這われた気持ち悪い感触が、今も皮膚に染み付いている。