Heroic Legend -終章の白-

□第87話 涙 -ナミダ-
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「……アハ」


ゾクゾクした。

何も感じられなかった魂に、初めて感じた快感。


ニンゲンを殴るのは、こんなに楽しい事なのか。

知識と常識はこれを禁止しているのは、こんな楽しみをしてはいけないって事なのか?


でも、今のオレには関係無い。


今のオレには、カラダがある。

ウデがある、アシがある、シンゾウも、ノウミソもある。

全部、自由に動かせる。



オレは、自由なんだッ!!


「ハハ、ヒャハハハッ! ほら、泣けよニンゲンッ!
ビービー泣き喚いて、オレに命乞いしろよぉッ!!」

「ぐ…ぎ……ぁぎ…ィッ!」


ニンゲンが喋れなくなるまで、オレはイシでソイツを殴り続けた。




…楽しい。

楽しいのか? いや、とても楽しい!

最高だ。

まるでこのニンゲンを支配したような気分。

いや、支配しているんだ!


この『ボウリョク』という奴があれば、どんな奴でもオレに従う。

誰もがオレに平伏す。

そうだろ?


だから、オレを生んだ奴は……オレに身体を与えなかったんだ。

こんな事を平気でやる事を知っていたから。



でも関係無いねッ!


もう誰にも止められないッ!



オレが全てを支配するんだッ!


そう、これは運命なんだよッ!

それがオレの生まれてきた意……



《やはり、コイツの内にも罪を恐れない"悪"が眠っていたか…》


「!?」






オレの楽しい時間は突如終わりを迎え、再びあの暗闇へと投げ込まれた。

















――――――――――…



「……嫌なモン思い出したぜ……」


目が覚めると、そこは和室だった。

真新しい畳の匂いと、朝食の味噌汁の匂いが漂ってくる。


オレはいつの間に、ここまで運ばれてきたんだ?

「…ぅう、まだ頭痛い…」

未だ痛む頭を触ると、誰かが手当てしてくれたのか、包帯が巻かれていた。


【…気が付きやしたね】

その声と共に、オレの目の前に木の実が差し出される。

【コレを食べて、英気でも養うといい】

「いや、オレポケモンじゃないし…。
まぁ、出されたモンは食わなきゃいけないって言われたしな…」

木の実を受け取り、一口かじる。


…苦かった。

「…ゲロ不味い。てか、いつからいたんだよ、お前ら」

今、オレの目の前にいるのはオノノクスではない。


ワシボンとマメパトの鳥コンビだった。
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