Heroic Legend -終章の白-
□第86話 Snow Festival -後編-
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早朝、6時。
「どうしたのじゃ、その目の下の隈は?」
「…見りゃ分かんだろ、ロクに寝れなかったんだよ……」
ゲッソリと窶(やつ)れた顔を鏡で確認していると、オレを起こしに来たミハクの表情が引き吊っていた。
昨晩は早めに布団へ入ったものの、ジワジワと痛む傷で眠気が全く来なかった。
その上に、医者の言っていた通りに気持ち悪い液体が火傷の傷から染み出して、ガーゼをあっという間に濡らしてしまった。
それを洗い流すと、痛くてますます目が冴えて………そんな事があったせいで、浅めにしか眠れなかった。
「……寝たい」
「けど、もうご飯できとるぞ?」
「食欲無ぇ…寝たい」
「駄目じゃ! 朝ご飯は一日の元気の源なんじゃからっ…」
「ぎゃあぁぁぁッ、右手掴むんじゃねぇよチビッ!!」
「何じゃと!?」
布団へ戻ろうとするオレの手を、ミハクがガッシリと掴む。
しかも運の悪い事に右手。
少しでも温かい物に触れただけでも痛むのに、体温の高いミハクが手を掴むものだから、激痛が電流のように走った。
「離せ、触んなッ!!」
「じゃあ、ご飯を食べるのじゃッ!」
「食うよッ!」
乱暴にその手を振り払い、ダッシュで部屋を飛び出す。
モタモタしていたら、また掴まれる危険があるからな…。
そのまま全速力で居間に飛び込み、サッと自分の席に着く。
「はぁはぁ……何で朝から、こんなに疲れなきゃいけないんだ…?」
「おはよう、クオン」
「お、おは…よう」
ジジィは相変わらず普通にオレに挨拶を掛ける。
オレもぎこちなく挨拶を返した。
因みに、これが初めてする挨拶だと思う。
今まではどうしてもこの一言が言えなかった。
「ったく、ギャーギャーと朝から騒がしい奴だな…」
先に飯を食っていたツバキは、横目でこちらを見ている。
「煩ぇ、こちとら重傷なんだぞ。少しは気遣え持てよ」
「そんな気遣いするくらいなら、ポケモンのコンディションにでも回すっての」
いつもと変わらない可愛く無い返事。
溜め息がちにオレも飯を食おうと、自分の膳を見る。
「あれ…何でオレだけスプーンなんだよ?」
「そんな右手で箸を持てるとでも思ったのかいの?」
「うぉっ、いつの間に…!」
いつの間にか隣で飯を食っていたミハクが、スプーンを指しながら言った。
「料理もスプーンで食べられる物にしたから、感謝するんじゃよ」