Heroic Legend -終章の白-

□第85話 Snow Festival -前編-
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朝。


突然身体に衝撃が走る。
この感覚、誰かがオレを蹴ったようだ。


「起きろ、絶壁」

この呼び方と不機嫌そうな声には覚えがある。

「痛ってぇよ、普通に起こせねぇのか?」

オレも不機嫌な声を上げ、その上体をゆっくりと起こす。

「はん、起こしてやったんだから有り難く思えよな」

「へいへい…ありがとうございます。ツバキさんよ……」

どうやら、オレは低血圧な部類にいるようだ。

偉そうにふんぞり返っているツバキに、苛つきもせず対応している。

ちょっとだけ、自分を誉めたい気分になった。


「…たく、結局居候すんのかよ。あのチビの子供も住み着いてるし…。
……はぁ、嫌んなるよ…」

ブツブツと聞こえるように呟き、ツバキはさっさと行ってしまう。




あの後、家にやってきたオレ達はジジィが帰ってきたら、すぐに飯を食って寝てしまった。

ツバキが帰ってきたのは、ジジィも寝る頃だったという。

だから、昨日以来一度も会っていない。

「ふわ……ぁ…」

一回欠伸をして、寝間着として使った浴衣から普段の半袖パーカーに着替えると、もぞもぞと布団を片付ける。

慣れていない作業の連続で朝から疲れる。

しかし、そんな泣き言は言ってはいられないだろう。


これから、こんな作業よりももっと疲れてキツい修行が待っている。

やるしかない。

「よし…行くか」

一人、小声で気合いを入れた後、部屋の外へと出た。













――――――――――…


「おはよう」

「ん…」

「挨拶は肝心な言葉だ。もう一度」

「は…はよ……」

「まぁ、良しとするか」

ジジィの部屋へと来た途端、本日一回目の説教を食らった。

早朝な為か、皿の上に火の点いた蝋燭が一本置いてあるだけ。

部屋には電灯があるというのに。
あえて、修行ムードを作る為にやっている事なのか?


「よく眠れたか?」

冷たい畳の上に正座しながらジジィが問う。

「あぁ、布団で寝たのは初めてだ」

オレも座ろうとしたら、突如現れたツンベアーに蹴られた。

「痛ぇ! 何すんだよッ!?」

【ハチクが正座をしているのに、胡座を掻くとはいい度胸だな】

「だからって、普通蹴んのかよ!?」


「ふむ…会話が成り立っているのだな、あれで…」

暫くジジィは、オレがツンベアーにボコボコにされる所を眺めながら、そう呟いていた。
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