Heroic Legend -終章の白-

□第69話 素数
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どんよりとした曇り空を見上げる青年がいた。

ライトグリーンの一束に纏めた長髪に白黒のキャップを被り、光の灯らない鉛色の目で流れる雲を追っている。


【…大丈夫か?】

青年の腰にある赤と白のボールから、黒い体を持つ生き物…ポケモンが現れた。

サファイアのように光る目に青年を映しながら、そのポケモンは心配そうに青年を見る。




「…うん、大丈夫」


暫くして青年が頷いた。

黒い体で一番目立つ赤毛をゆっくりと撫で、青年はもう一度「大丈夫」と呟いた。


【オレは、お前が間違っているだなんて…思っちゃいねぇよ。
…それはアイツも分かっているから、ワザとあんな態度を取ったんじゃないのか?】

「知ってる。フォリアは"ただの思い込み"で物を言わない事もね」

先程、青年は少女に言われた。

その少女は見た目も言葉も、全く年相応には思えない人物。

心の何処かで何かを悟ったような表情をする少女だった。





『与えられたものだけが真実とは限らない』




この言葉だけが、青年の中で唯一理解しえないものだった。

(与えられた…? どういう意味なんだ?)


自分は何かを"自分で"得ようと旅を始めた。

だから、"誰か"から何かを与えられた覚えは無い。


かと言って、少女の言葉がデタラメだと決め付けるには理由が無い。



【…その内分かるんじゃねぇの?
今は悩むより、前進しようぜ。レシラムに会いにさ…】

ポケモンはそう言って青年を促す。


「…分かった。キミがそう言うなら旅をしながら考えるよ。
ボクも早くレシラムに会いたい」

一旦その言葉の意味を考えるのを止め、青年はニコリと純粋な笑顔を見せた。

【N、近道しよう。乗って乗って】

N…と青年の名前を呼び、彼の腰に付けられたボールから再びポケモンが現れた。

岩のように頑丈そうな甲羅から青い頭と手足を出し、目の前に流れている川に飛び込む。

【ちょ…水掛かっちまったじゃねーか!】

黒いポケモンは嫌そうに体を震わせる。

【すまんすまん。ほら、早く乗れって】

「ありがとう、アバゴーラ」

アバゴーラは自分の甲羅にNとポケモンを乗せると、楽しそうに川を泳ぎ出した。










【なぁ、次は何処に行くんだ?】

「電気石の洞穴だよ、ゾロアーク」


まるで次の目標を見定めたように、Nは変わらない笑顔のまま答えたのだった。




←〔To Be Continued…〕
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