Heroic Legend -間章の灰-
□第66話 記憶の古城
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目が覚めると、全く知らない場所にいた。
隣にはアローネさんが立っている。
周囲を見渡すと、殆どが石造りの建物である事が分かった。
壁は綺麗に削られて磨き上げられ、照明代わりの松明が壁際に均等に取り付けられている。
特殊な塗料で描かれた床は足で擦っても落ちず、絵やら意味不明の文字が描かれていた。
一言で言うなら、古い城の中にいるみたいな気分だ。
「…ここ、何処ですか?」
不安が押し寄せ、アローネさんに尋ねる。
「ここはあなたの心の中よ。
アーテルが創り上げた空間で、今は彼の世界になっているだけ」
「もう…何がなんだか…」
頭を抱えて座り込みたくなったが、普通に歩き出したアローネさんに慌てて付いて行く。
ここまできてなんだが、杖無しでスタスタと歩いていくアローネさんは凄い。
本当に盲目なのか、疑ってしまう位だ。
暫く歩くと、階段があった。
アローネさんはそこで止まると、静かに階段を見上げる。
ボクもそれに倣(なら)った。
階段の上には四つの椅子が並び、その大きさや立派さからするに、あれは玉座なのだろう。
その中の一つに、一人の少年が鎮座していた。
赤と黒の衣装に身を包み、威風堂々とした雰囲気が出ている。
少年は幼さが残りながらも大人びた表情で、ボク達を見下ろしていた。
その顔は、見覚えのあるあの顔だ。
「…アーテル、なのか…?」
ボクが呟く中、アローネさんは階段下で跪き、少年に向かって挨拶を始める。
「お初にお目に掛かれて光栄の極みで御座います、黒き英雄。
私(わたくし)はアローネ・アウド・イッシュ。
かつて"霊魂の神子"様と結ばれた貴方様の力を受け継ぐ者の一人であり、貴方様の末裔に当たる存在で御座います」
「え…? 今、何て…」
アローネさんが言っている言葉が別段難しかった訳ではない。
しかし、聞き返さずにはいられなかった。
今、黒き英雄って…。
「存じているぞ、アローネ。
ライラックの兄に当たる者であり、神子の力を強く受けた子…だな。
まぁ、取り分けそんな難しい言葉を並べなくてもいい。
俺はもう、王でも英雄でもないからな。普通に話せ」
「ふぅ…良かった。
しかし、アーテル様。アタシ、身体は男でも中身は女なの。
そこを気を付けて欲しいわ」
「ちょ…待って! 二人の話が全然分からない!」
たまらなくなり、駄々をこくように叫んだ。