Heroic Legend -間章の灰-

□第44話 絵を描く少年
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「看護師さん、もう退院していいで…」

「駄目です」

「明日は…」

「駄目です」

「明後日…」

「駄目です」

「そ…」

「駄目」

「まだ『そ』しか言ってないじゃないですか…」



木枯らし吹く季節にも関わらず…空は晴れ、少し暖かい。

窓の外では子供達が元気に走り回って遊ぶ中、病室内でボクは駄々をこねていた。


「いつ退院できるんですか?」

「担当の先生に聞かないと…ね」

「そればっかりじゃないですかー…」

「…ついこの前目が覚めたばかりなのに、すぐ退院できる訳ないじゃないの。
ずっと眠ってたせいで足や腕の筋肉も落ちてるし、最低でも一人で歩けるようになってからじゃないと…」


先生の話によれば、ボクは一週間以上眠ってたらしい。

擦り傷や軽い打撲以外に怪我は無く、容態も比較的安定していたという話だ。


目が覚めた時は酷かった。

身体は思うように動かないし、ベッドから降りようとすれば足に力が入らずに転げ落ちるし…。

最近できる事と言えば、一人でご飯を食べる事とか伝い歩きで短距離の移動とか。


これでも、回復は早いと言われる方だ。



「……退院したいな…」


検温等を終え、看護師さんが次の病室へと移動した後に、一人ポツリと呟いた。


ここ五日、毎朝訪れる看護師さんに連続で、

「いつ退院できますか?」

という質問攻撃を仕掛けている。

その度に返ってくる返答は同じ。

それを聞いて落ち込むのも毎度の事になっていた。



窓を見て溜め息をついていると、病室のドアが開く。


「売店って便利ね。
コンビニと花屋さんが合体したみたいだわ」

母さんが片手に白い買い物袋をぶら下げて、顔を覗かせていた。
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