Heroic Legend -間章の灰-
□第42話 目覚めない意識
3ページ/11ページ
「…そろそろ目を覚ましても良い頃なんですが、覚ます気配が無いんですよ」
「そう…ですか…」
母親は少し目を伏せたが、再び医師の顔を見る。
それを確認したように、医師が話を再開させた。
「…事情はある程度聞きましたが、恐らく幼少期に遭われた事故による恐怖が今も根強く残っているのだと思います。
カノコに落ちた落雷の音を落石の時の音と重ねてしまい、当時の記憶がフラッシュバックされたのでしょう。
意識が戻らないとなると、文字通り…昏睡状態になりますね」
母親は、ただ医師の話に頷くだけだった。
頷くと言ってもただ適当に首を上下に動かしているだけで、話なんて右から左に抜けていく感じだ。
しばらくあれこれと今後の入院生活の話をして、医師との対話を終えた。
母親は一礼して、診察室を出て行く。
病院の白い廊下をゆっくりと歩きながら、母親は一人で考えていた。
(…あの出来事は、一般人である私から見ても信じられないような事だったけど、実際にこの目で見た……)
自分の娘に起こった事を思い返し、正直に話してはいけないという答えに辿り着くまでに、大して時間は掛からなかった。
実際、それを見てたとしても夢を見ているような気分になるし、その事を聞いた側からは鼻で笑われながら一蹴されるのがオチに決まっている。
その母親自身、まだ現実に起きた出来事なのかと疑う位なのだから、尚更だ。
(…けれど、実際に起こった事…なのよね)
落雷に撃たれた娘が無傷で生きていた。
しかもその前に心肺停止状態だったのに、落雷の直後には何事も無かったかのように蘇生していた。
普通、蘇生どころか100%黒焦げで即死になるような落雷だと言うのに、そこからして常人の考えを逸脱している。