Heroic Legend -間章の灰-
□第41話 歪んだもう一人
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【…アンタら、こないな田舎町までご苦労な事やな。
けど、これ以上暴れられると近所迷惑にも限度っちゅうモンがあるさかい、そこまでにしてもらうで】
(ジャルル…?)
威嚇するような、ドスの利いた声で話すジャルル。
ボクは彼女の姿に驚いていた。
…確かに、声と口調はジャルルの物だが、姿は二日前の彼女ではない。
スリムで細長かった体は一回り大きくなり、より体長が以前よりも高くなっている。
目付きも少し鋭く、美しく威厳のあるような顔付きは、まさに蛇のそれと酷似している。
その姿を見て…数秒経ってから、その名称が頭に浮かんできた。
「…ロイヤルポケモン、ジャローダ……」
二日前にはジャノビーだったジャルルは、進化してボク達の前に現れたのだ。
いや、進化したのはジャルルだけではなかった。
以前のぽっちゃりとした体から、逞しい両腕と燃え上がる顎の炎が特徴的である巨漢な体格へと成長したブリッツ。
確か名称は…
"大火豚ポケモン、エンブオー"だった筈だ。
そして、二枚のホタチで素早い連続攻撃を得意としたヤイバも、逞しい四肢と鎧の様に纏った数十枚ものホタチを持った姿に進化していた。
名称は…
"貫禄ポケモン、ダイケンキ"。
ガルダとランプルは進化をしておらず、しかし…ガルダには少々筋肉が付いたように見える。
ランプルも、顔付きがキリッと引き締まっていた。
プラズマ団もその姿を認めると、先程までに怯んでいた彼らのポケモン達が、威嚇の声を上げながら近付こうとする。
しかし、それは進化した御三家の威圧感のある眼光のみで、阻止されてしまった。
「なんで……」
みんなはボクが全て解放……いや、逃がした筈だ。
…なのに、何故戻ってきたのか…ボクにとっては理解不能だった。
そして、この場に現れたのはジャルル達だけでは無かった。
「…っ、すまない! 遅くなった!」
「ふぇぇっ?! た…大変な事になってるぅ…っ!」
(チェレン……ベル…!)
ボールを構え、幼馴染み二人がやって来た。
全力で走ったのか、浅く息を切らしている。
それに続いて…鳥ポケモンらしき影と巨大なバルーンの様な影が、空から舞い降りて来た。
そこに乗っていたのは、三人の人間。
その内の一人が、ボクを見るなり名前を叫んだ。
「フォリアっ!!」
いつも綺麗に後ろで纏めている茶髪は少し乱れ、表情は恐怖で固まってしまっている。
…母さんだ。
ボクの表情を見て、ただ事でない事を察知したのだろう。
すぐにでも駆け寄ろうとするが、少し長く状況を見ていたジャルルに止められる。
「おやおや…大分賑やかになってきましたねぇ…」
こんな状況にも関わらず、ゲーチスは呑気にそう呟きながら機械をいじる。
…途端に嘘のように痛みが消え失せ、団員のポケモン達の感情の声が聞こえなくなった。
「…っ、ハァ…ハァ……ッ!」
突然痛みから解放されたので下を向いて喘げば、新鮮な空気が肺を満たし、徐々に身体が楽になっていく。
「…おい、コレはマズい状況じゃないか…」
聞き覚えのある声が、また聞こえる。
その方へ顔を上げれば、宣伝バルーンのようなポケモンから飛び降りて着地する二人の人間がいた。
身長差のある二人は周りの状況を一通りチラリと見ただけで、ボールを取り出す。