Heroic Legend -間章の灰-

□第39話 黒星、再来
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「…っ!」


頭に食らった衝撃で、声も無く床へと倒れ伏す。

【フォリアさ…うわぁっ!?】

肩に掛かっていた少量の重みが消えるのを感じた。

キバゴがボクの肩からいなくなったのだ。


「生息地が限られていると言われているキバゴが、まさかこんな所で捕まえられるとはな…」

上から楽しそうな声が聞こえてくる。

低い声からして、男の声だろう…。

痛みをこらえて首を動かすと、黒いブーツが見えた。


「アンタ、何してるんだい!
人を殴って、ポケモンを奪うなんて…!」

アロエさんが激怒しながらこっちへ来る音が聞こえてくる。


「ハァ? コイツがポケモンを逃がすって言うから、心優しい俺が引き取ってやるんだけど?
何勘違いしてんの?」

男がそう言いながら、倒れるボクの頭を軽く蹴る。

【止めろ…! 離せっ!】

「おい、暴れるなよ!
せっかくお前を逃がそうとするバカなトレーナーから助けてやったのによぉ…」

【違うっ! この人はバカじゃない!】

(いや…ツッコむ所が微妙に違う気が…)

そう思いつつも…アロエさんがこっちに来る前に、ボクは平然としたように起き上がった。

まだ頭に痛みが残っているが、大した事は無いと思っている。

しかし、周りの人間はそうは思っていなかったらしく、起き上がったボクを見て息を呑んだ。


ライカなんかは小さく悲鳴をあげている。

【フォリアさん…!】

「お…お前、何で普通に起きてんだよっ?!」

「さぁ? 殴る力が弱過ぎたんじゃない?」

そう言って、間髪入れずに男の顔面に右ストレートを食らわす。

男は何も言えずに倒れ込み、そのまま伸びてしまった。

「ふん…バカな奴」

軽く男を見下したように一瞥してから、キバゴを抱き上げる。


【すみません、ありがとう…ございます】

「別に。ボクはキミを元の洞穴に帰すまでの保護者的な役割があるからね。
…それから、こんな下衆な人間は排除対象に当たる」

そう言ってキバゴと先程落とした本を拾い、ドアの方へ向かう。


「フォリア!」

ドアを開けて去ろうとすると、ライカが追い掛けてきた。

「…何か?」

「頭…血が…」

キバゴを肩に乗せて、空いた方の手で殴られた後頭部を触ると、ヌルリ…とした感触と共に赤い鉄の匂いを放つ液体が手に付いていた。


「…後で治療する」

「私が治すわ」

そう言って、ライカがボクの傷に手を伸ばそうとする。

しかし…




「ボクに触るなッ!!」

「…っ!」

相手を睨み付けて一喝すると、ライカはビックリして伸ばした手を止める。

そして、そのまま手を引っ込めた。

【…お前の傷を主人が治すと言っているのに、その無礼な態度は些か目に余るな…】

ライカの方からガタガタと音を立てながら、ポケモンの声が聞こえてくる。

彼女はそのボールを持ち、

「ツバサ…どうしたの? 怒ってる?」

と聞いた。


「主人…ねぇ」

ツバサと呼ばれたポケモンの声の主、ウォーグルはボクに威嚇の声を上げる。

「ボクは自分で治すと言った。
だけど、ライカが勝手にボクに触ろうとしたから怒っただけだ。
…ボクは主従関係を作って偉そうにしている人間に触られたくないんだ」

ツバサに自分の意見を一方的に言い、ライカを一瞬だけ睨むと、ドアの外へと出て行った。



【…何よ、アイツっ! こないだは治してもらったくせに!】

ドアの向こう側で、ピピルの怒りの声が聞こえてくる。
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