Heroic Legend -序章の黒-
□第34話 フキヨセの洞穴
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(すごい…)
ボクが見ている間にも、ジャルルはみるみるうちにボクの知らないようなジャルルに変わっていく…。
さっきまで持っていたトーンへの警戒心がすっかり消え失せ、尊敬の念さえ起こっていた。
「―――――はい、完了よっ!」
自信満々に終了を告げるトーン。
ジャルルに向かって鏡を向ける。
「…アクセサリーは顔と胸元だけだから、早かったでしょ?」
【…!】
ジャルルは鏡を見て固まった。
薄くだが、目元を意識したメイクに頭の横にはクール系な青ストライプのリボン。
青々と爽やかに艶のある体は輝き、胸元にはリボンに合わせたアクアマリンのネックレスが付いていた。
「…これが……ジャルル…」
【だ…誰やコイツ…?】
見違える程に美しくなったジャルルに、ボクと当の本人はポカンと口を開けていた。
端から見れば、結構マヌケ面である。
「どう…? ちょっと飾り過ぎた?」
「う…ううん、すごい可愛くなってる…。
ボクが知ってるジャルルじゃないみたいだ…」
【ウチ…こんなに変われるんやな…】
クルリとベンチの上でターンしながら、満足げに鏡を見つめるジャルル。
【素敵っ、クール系美少女の完成ね!】
チラーミィもパチパチと拍手をする。
ボクはトーンに握手を求めて、手を差し出した。
「…さっきはゴメン、怪しんだりして」
「良いのよ。こんなテンションで怪しまれるのはいつもの事だしね」
トーンも差し出された手をしっかりと握って、握手を交わした。
「このリボンとネックレスはあげるわ。いきなり抱き付いた件と、こんなに可愛らしい子のコーディネートをさせてくれた件の、お詫びとお礼よ」
「うん、大事にする。色々ありがとう」
「…それでさ、もう一つお願いがあるんだけど…」
遠慮がちに手を合わせ、頼むような仕草をするトーン。
「…あ、忘れてた。
ボクに出来る事なら出来る範囲で聞くよ」
本当?! という風に、トーンはパッと顔を上げる。
「あのね、頼みっていうのは……」
「…フォリアっ!」
トーンの言葉を遮り、息を切らしたライカとミハクが走り込んできた。
「二人共…」
「や…やっと見つけたわい…」
「もう…無理…走れない……」
相当走ったらしく、二人は肩で息をしながら震える膝を押さえている。
「大丈夫?」
そう聞くと、ピピルがライカの肩から現れる。
【誰のせいで探し回ったと思ってるのよ? 疲れちゃったわ…】
【それ…ライカの肩に乗って言うセリフやないで】
毎度の事ながら、的確なツッコミをするジャルル。
【ちょ…それは関係無い……って、君…誰?】
【…ウチや、ウチ】
【へ……ジャル…ル?】
まるで信じられないような表情で、ピピルはジャルルを見た。
【ど、どうしちゃったのっ?!
イメチェンにも程が…!】
【アホ、驚き過ぎや…】
やれやれ…とジャルル首を振りながら、付いているアクセサリーを取り外し、ボクに渡した。
【持っててな。いつか、気分転換の時に使うんやからな】
「うん、分かった」
受け取ったアクセサリーをカバンの中にしまい、トーンの方を向く。
「紹介するね、トーン。こっちの緑色の子がライカ。
それから、このバンダナの子はミハクって言うんだ」
「トーン…って、あのトーンっ?!」
突然、ライカが驚愕した表情に変わった。
「知り合い?」
「フォリア…知らんのか?」
ミハクも少し驚いたような表情になっている。
「トーンと言えばコーディネーター・ポケリストの間では知らぬ者はいない程の、天才ポケリストなんじゃよ」
「まさか…こんな所で会えるなんて…」
「元はコーディネーターだったんだけどね」
三人で意味不明の単語を言って話し合っているので、ボクは一人…蚊帳の外で置いてけぼりを食らっている。
「…もしもーし。ボクを放置しないでよー」