Heroic Legend -序章の黒-

□第34話 フキヨセの洞穴
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「あんたのジャノビーがあんまりにも可愛いから、つい抱きついちゃって…!」

突如現れた謎のハイテンション少女・トーンは、顔を赤らめながらジャルルを見て話し始めた。

「それでね、この子をお洒落させたくて…」

ほら…と言って、ハート型の煌(きら)びやかなケースを取り出す。

「これが一つ目のお願い。
あんたのジャノビー…」

「ジャルル」

「あ、ごめん。ジャルルにお洒落してもいいかしら?」

「……どうするの、ジャルル?」

トーンのテンションに付いていけないボクは、呆れ顔を変えずにジャルルを見る。


この顔と態度で初対面の相手を見る時は、警戒態勢の状態。

斜めで相手の言動や話題を流しつつ、信用してもいいのかを見極める。

ボクだって、誰にでもニコニコしている訳では無いのだ。


【うーん…】

ボクとトーンを交互に見ながら、必死に考え込むジャルル。

「愛らしい…」

ケースを抱き締めるように胸に抱えながら、トーンがジャルルを見つめている。

やがて、ジャルルは遠慮がちにボクを見た。

【フォリア、ウチ…ポケモン言うても一応…女やろ?
せやから…】

もじもじと恥じらう乙女のような表情で言うジャルル。

こういう顔もするんだと、改めてそう思った。


「…はぁ、分かったよ」

【ホンマに?!】

パァっと顔を輝かせながら、ボクを見つめるジャルル。

ボクはお洒落に全く興味を示さなかったから、ジャルルもこういう事がしたかったのかもしれない。


ボクはトーンの方を向く。

彼女はまだジャルルを見ていた。

「…ねぇ………もしもし、聞いてる?」

「へっ? あぁ、うん、ごめん!
…で、良いのかしら?」

「あの表情を見れば、ダメだなんて言えないよ。
…でも、怪しい動きをしたら、今後は投げるだけじゃ済まさないからね」

ボクが釘を刺しながら言うと、トーンは嬉しそうに飛び上がった。

「分かってるわっ!
じゃ、早速そこのベンチに座って座って!」

トーンはケースをバッグにしまい、ボクらの手を掴んで引っ張り出す。

半ば強引にベンチに座らせられ、トーンはその脇の地面にしゃがんで準備を始める。

先程のケースをベンチに置き、布やポーチなどを次々と出しては、手際良く置いていく。


ものの30秒で準備を終えると、トーンはジャルルの方を向いた。

「よし…、リラックスしててね。
あんたの一番の魅力を引き出すには、普段の姿勢や表情が良いのよ」

【り…了解や…】

初めての事なので、ジャルルは緊張で固まってしまっている。

リラックスしろと言われても無理だ。


「ん…、まだ緊張してるね?」

トーンの質問に、コクリと頷くジャルル。

すると、トーンは再びカバンに手を突っ込み、一つのボールを取り出す。

「おいで、チラーミィ」

ポンという音と共に飛び出してくるお馴染みのチラーミィ。

【トーン、何かお手伝い?】

期待したような目でトーンを見るチラーミィ。

トーンはチラーミィの聞きたい事が分かるかのように笑顔で頷く。

「…この子の緊張が解(ほぐ)れないから、歌ってあげてちょうだい」

【はい!】

ケースの中にあるアクセサリーを選びながらトーンがそう言うと、チラーミィは嬉しそうに了解した。


ピョンっとベンチの上に飛び上がり、ジャルルの隣に座る。

【ちょっと失礼…】

【…?】

不思議に思うジャルルの傍で、チラーミィは静かに歌い出した。


清らかな川の流れる音のように、清楚な歌声はジャルルの強ばっていた表情を和らげ、安堵の表情へと変わる。

それはボクも聴き入ってしまう程だった。

「いいわ…その調子よ、チラーミィ」

小声でチラーミィを激励しながら、トーンは数個のスプレーやパウダーを持って、ジャルルの体を濡れたタオルで拭き始めた。


汚れや埃を取り除き、スプレーで毛艶を良くしてから、パウダーで輝きを付ける。

テキパキと素早い作業で、数分もしない内にジャルルの体は見違える程に綺麗になっていた。
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