Heroic Legend -間章の灰-
□第52話 太古の夢
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※第三者視点
ザァァァ――――――…
雨が降っている。
それらは全てを押し流す。
土も。
汚れも。
地面にできた、おびただしい量の血の海も。
息絶えた冷たい無数の魔獣や、無数の兵士達の真ん中にあった岩に座り、男は力無く項垂れていた。
赤と黒が基調で生地の良い衣装と、脇に携えている美しい装飾の剣という身なりの良さからして、身分の高さが予想できる。
その見事な衣装も剣も、今は雨と泥と血にまみれて鈍い輝きしか放っていない。
雨に叩かれ、男は周囲の死体の山を虚ろな目で見つめていた。
「……また、守れなかった…」
疲れ切った声には、悔しさと悲しみの感情が入り混じり、死体の山に対する謝罪の気持ちが表れている。
「…なぁ、誰か…」
曇天から落ちてくる雫を顔に受け、男は空を仰ぐ。
そして、問い掛けた。
「俺達は…いつまで戦わなきゃいけないんだ?
…誰か、答えてくれよ…っ!」
雨か涙か分からない雫を流しながら、男は嗚咽を漏らして泣き出す。
それは、普段周囲の人間には決して見せず。
ましてや敵には死んでも見せないという、先導者の咽(むせ)び泣く姿。
仲間には英雄と呼ばれ。
傍らには常に共に戦う魔獣がいてくれて。
自分を支えてくれる人々がいるのに…。
「俺は…俺は……」
何も守れやしない。
自分の無力さを、叩き付けるように叫ぶ。
こんなに自分は助けてもらっているのに。
その恩さえ返すどころか……こんなにも犠牲を払い、自分だけが生き残ってしまった。
こんな、無力な自分が英雄だなんて…笑ってしまう。
嘲笑と嘆きの表情で締まりの無い顔をしていた時、後方に気配を感じる。
それは、自分を後ろから包むように抱き締め、美しく長い白髪の髪が目に入った。
「……黒き英雄、そう自分を嘆かないで。
私(わたくし)達、民も悲しみます…」
「…イザヨミ、か…」
男は自分を抱き締めた少女の名前を呟く。
「イザヨミ。俺は英雄なんかじゃない。
俺は……皆を守らなければならなかったのに、こんなにも犠牲を払ってしまった…」
「…それは、貴方様が英雄になられてから、まだ期が熟していないだけなのです。
それは、貴方様の兄上でもあるアルブス様も一緒…。
向こうも、こちらと同じ位の犠牲を払われてしまった事でしょう…」