Heroic Legend -序章の黒-

□第34話 フキヨセの洞穴
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三人は各々が出したポケモンに乗って、ボクの後を追い始めた。


ボクは頭痛を堪えながらヤイバと共に休む事無く泳いで、洞穴のある岸へと向かう。

【…フォリア】

「何…?」

【本当にあの洞穴へ行くのか?】

「…もう戻れないし、戻っても…意味が無いからね……。
何か…嫌な予感でもするの?」

ボクの質問にヤイバは小さく頷いてから、ようやく見えてきた洞穴の入り口を見つめる。


【……何かいる…。拙者達よりも長く生きている者の、年長者の気配…と言えばいいのか?
…とにもかくにも、この威圧感……。ただの洞穴ではないな…】

そんなヤイバの言葉にボクらは警戒を持ちながら、やっとの事で岸にたどり着く。


ザブリ…と川から上がり、服を乾かすのも忘れてぽっかりと空いた洞穴の入り口を見る。

空気が吸い込まれ、奥で不気味に唸り声を上げながら、ここへ来る獲物を待ち受けるかのような雰囲気を持ち、思わずブルリ…と震える。

川で泳いで身体が冷えたのも少しあるかもしれないが、そんなものでは無い。


一言で言うと、



『恐怖』


…にも似た感情がボクを呑み込んでしまう…。
その事から来る震えだった。



【…大丈夫か?】

再確認するように、ヤイバが尋ねる。

ボクはゆっくりと頷いてからヤイバをボールに戻し、地に着いて言う事を訊かない足を無理矢理動かして、見えない闇に向かって歩き出した。


















※N視点


【…入ったようだな】

「うん」

フキヨセの洞穴が見える崖の上に、ボクとゾロアークは立っていた。


今し方、フォリアが洞穴に入って行ったのを確認すると、ゾロアークは確かめるように呟いたので、ボクもそれに応える。

「あの事故、やっぱり『彼』が絡んでたよ。
ボクもやっと思い出した。トウヤを。勿論フォリアの事も」

【10年前…か…。
オレも何か引っ掛かってたんだよな…】

「過去の話はもう過ぎた事だよ。
それよりも彼女はコレに耐えられるだろうか?」

顎に手を当てながら考えるボク。

その様子をゾロアークはジッと見ている。


【…随分気にするんだな。
人間なのに…】

「彼女はボクとは違う何かを持っている。
…それを持たなければそこら辺の罪深い人と同じ」

【…最初から『奴』に選ばれ、試されている事が気に入らないのか?】

ゾロアークの冗談混じりに放った言葉が、ボクの胸にチクリときた。

その言葉が図星だったからだ。


「でも、いいさ。ボクはキミ達がいてくれるなら何処までも進む事が出来る。
…必ずレシラムに相応しい英雄になるんだ」

改めて誓うようにそう言った。


一刻も早く人に虐げられるポケモン達を解放しなければ。

それがボクの夢であり、使命なのだから。


【…オレもお前と共にいる。
絶対に何があっても、助けるからな】

「うん。ありがとう、ゾロアーク」


肌寒い風に吹かれながら、ボクらはこの場を静かに立ち去る。

(フォリア、キミには絶対に負けない。
例え『彼』がキミを選んだとしても)


ボクらが去った場所には、相変わらず冷たい風が吹き続けているだけであった――――――…。













※フォリア視点



「はぁ……はぁ…」

頭痛は少し収まったものの、今度は周りの重苦しい空気で息苦しい思いになる。

周りにいる野生のポケモン達は平気な顔で歩いているか、辛そうに歩くボクを不思議そうに見送っている。


【…フォリア、少し休憩せなアカンて】

ボールから出てきたジャルルは、ボクが答えを言う前に蔓で手を引き、傍にあった岩に座らせた。


「…平気だよ。それに、もう頭痛は収まったし…」

【せやけど、少し休みも挟まなアカン。
アンタ、あの三人を置いてまでここへ来たんやで?
倒れたら、ホンマにマズいで】

ペタリ…、とジャルルもボクの隣に腰を掛けながら言う。


【……そない無理してまで、思い出さなアカンもんなんか?】
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