Heroic Legend -序章の黒-

□第34話 フキヨセの洞穴
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「みはに、バトルを教えてくれた人なんじゃ。
エラい別嬪(べっぴん)さんで、バトルが強くての…。みはの憧れなんじゃよ」

ミハクは嬉しそうに話し、更にはスキップまでしてしまっている。

(相当慕っているんだな…)




そんな話をしながら、ボクらは川の流れに沿って歩き、やがて一軒の家が見えてきた。


…ボクはその家に見覚えがあった。



「あ…あれ…」

「どうしたの、フォリア?」

トーンに聞かれたので、ボクは答える。

「…あれ、ボクが前に住んでた家だ」

「へぇ…。じゃ、生まれはホドモエなの?」

「ううん、そういう話はママとした事が無いから、分かんないや…」

今度帰ったら聞いてみよう…。

そう思った時、ボクの名前を呼ぶ声がした。





「おや……フォリア…ちゃん?
フォリアちゃんなのかい?」

「え…?」

その声のする方を振り返ると、白髪で白髭を蓄えたお爺さんが立っていた。

その顔は、懐かしの人物に会ったような…驚きと喜びの表情をしていた。


(…誰?)

「フォリアちゃん! まぁ…こんなに大きくなっちゃって…。
ほら、ワシじゃよ…。よくトウヤ君と一緒に遊びに来たじゃないか!」


…この人が何を言っているのか、少し理解出来なかった。


"よく『トウヤ』と一緒に遊びに行った"って…。


だって…トウヤは赤ん坊の時に………。




「く…っ!」

突然、またあの頭痛が襲ってきた。

嫌な感覚と共に、万力で頭を締められるような痛み…。


耐えきれず、地面にしゃがみ込む。


「フォリア?!」

三人が慌ててボクに駆け寄ってくる。

「フォリアちゃん…まさか……『あの事故』の時の後遺症が…?」

「後遺…症?」

見に覚えの無い事に、思わず聞き返してしまう。

「知らない…知らないよ……。
ボクは……っ、知らないっ!」

お爺さんが答える前にそれを遮るように言ってから、痛みでグラグラする頭を抱えてユラリと立ち上がる。
そして、覚束(おぼつか)ない足取りでフラフラと歩き始めた。

何処へ行こうとしているのは、ボクにも全く分からない。

それどころか、この激しい頭痛でそんな事を考えている余裕なんて無い。


でも……、

(…呼んでる……)


何となくではなく、ハッキリと…ボクを呼んでるような声が聞こえる。

それはボクの名前ではなく、来いと言っている訳でも無い。

言葉というか…思念のようなモノ……。


勝手に身体がその方へ引き寄せられるように歩いていく。

「フォリア、無理しない方が…」

心配そうに声を掛けるライカに、ボクは虚ろな表情と声で言った。



「……かなきゃ」

「え…?」

「行かなきゃ…行かなきゃ……駄目だ…
…待ってる、待ってるんだ……」

「フォリア…?」

震える手でボールを取り出し、ヤイバを川の中に繰り出す。


【フォリア、大丈夫か?】

「大丈夫……。それより、ボクを…、波乗りであの洞穴まで渡らせて欲しいんだ…」

そう言って、フキヨセの洞穴を指差す。


「ちょっと待って、フォリア! そんな状態で行ったら……っ」

「そうね。今は休憩した方が…」

「今すぐじゃないと…駄目なんだ…」

ライカとトーンの制止も聞かずに、ボクは川に飛び込んだ。

そして、そのままヤイバに捕まって泳ぎ出す。

ヤイバはボクの体調を考えてくれていたようで、ゆっくりと泳いでくれている。


「フォリアちゃん! 駄目だ、あの洞穴に行ったら…!」

お爺さんまでもボクを止めようと、必死に叫ぶ。


でも、ボクはそれでも行かなきゃいけないんだ。

ハッキリとは分からないが、あの洞穴へ行けば……ボクの記憶が戻ってきそうな気がする…。




「…こうなったら、あたし達も行くわよ」

全身が黒いポケモンを出しながら、トーンは言った。

「…えぇ、あれじゃ倒れてもおかしくないもの…」

ライカもそう言いながら、青い体に黄色の触角のようなものが付いたポケモンを川に出す。

「ご老人、何があったかは敢えて聞かぬが、フォリアの事は任せるんじゃ!」

紫色の気球のようなポケモンに捕まりながら、ミハクがお爺さんに言った。
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