HQ 長編A

□A
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「及川さーん!頑張ってくださーい!」

体育館の2階のギャラリーから、いつもみたいに及川さんを応援する女子が部活を見学に来ている。
あの雨の日の一件以来、あの先輩とは会えていなくて、何だかスッキリしない。別に傘を返してほしい訳じゃないし、礼がほしい訳じゃない。
ただまたあの先輩に会いたいだけだ。

「おい、金田一!ぼさっとすんな!」

「は、はい!スンマセン!!」

もしかしたらあの先輩が来ているかもとか、淡い期待を持ってギャラリーを見渡す回数が増えて、こうして岩泉さんからちょいちょい怒られる。

くっそ…情けない。

今からチームに分かれて試合形式の練習が始まるのに、これでは迷惑かけちまうな。

「なになに金田一?気になる子でもいるの?最近ずっと2階見てるの及川さん知ってるんだからね」

「うえぇ!?あ、の…別にそんなんじゃ…!」

「顔真っ赤だよ。何図星〜?」

この人にだけは追求されるのを避けなければと思ってたのに、まずい、非常にこれはよくない方向に行く可能性がある。
頼みの岩泉さんは監督と話をして助けてくれそうにないし、花巻さんと松川さんは遠くから俺を見てニヤニヤしてるから、ここで話しかけたら火に油だ。

「ちょっと!何逃げてんの!?白状しなさい金田一、先輩の言うことが聞けないの!?」

「及川さんだから聞けないんです!」

「ついに金田一までも及川さんに暴言吐くとは!?」

我ながらいつにも増して及川さんから逃げようとしてるのは、本能で身の危険を察知したからだろうな…。





どうにかすぐ試合になってこれ以上の追求はなかったけど、部活終わった後とか、部室でまた聞かれんだろうな。ついでに花巻さんと松川さんも加わるのは確実。そしてこんな時の国見は当てにならない。

練習が終わって片付けながらこの後の対策を練っていると、女子の声が響いた。

「松川ー!」

及川さんなら慣れているが、松川さんが呼ばれるのは初めてで、部員がそちらに向いた。

「あ…」

松川さんを呼んだ女生徒の隣に、会いたかった人が立っていた。ビックリしたけど、ここで動揺してはいけない。動揺したら色々バレる。

「なんだよ珍しいな」

「教室に財布忘れてたから届けに来てあげたのに頭が高いぞ松川」

「ドウモアリガトウゴザイマシタ」

態とらしく深々と頭を下げる松川さんの意外な一面を見た。

「で、みょうじも付き添い?」

「あ、そうだなまえの探してる人どの人?」

あの人みょうじなまえさん?ていうのか。はじめて知った。
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