HQ 長編A
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「及川さーん!頑張ってくださーい!」
体育館の2階のギャラリーから、いつもみたいに及川さんを応援する女子が部活を見学に来ている。
あの雨の日の一件以来、あの先輩とは会えていなくて、何だかスッキリしない。別に傘を返してほしい訳じゃないし、礼がほしい訳じゃない。
ただまたあの先輩に会いたいだけだ。
「おい、金田一!ぼさっとすんな!」
「は、はい!スンマセン!!」
もしかしたらあの先輩が来ているかもとか、淡い期待を持ってギャラリーを見渡す回数が増えて、こうして岩泉さんからちょいちょい怒られる。
くっそ…情けない。
今からチームに分かれて試合形式の練習が始まるのに、これでは迷惑かけちまうな。
「なになに金田一?気になる子でもいるの?最近ずっと2階見てるの及川さん知ってるんだからね」
「うえぇ!?あ、の…別にそんなんじゃ…!」
「顔真っ赤だよ。何図星〜?」
この人にだけは追求されるのを避けなければと思ってたのに、まずい、非常にこれはよくない方向に行く可能性がある。
頼みの岩泉さんは監督と話をして助けてくれそうにないし、花巻さんと松川さんは遠くから俺を見てニヤニヤしてるから、ここで話しかけたら火に油だ。
「ちょっと!何逃げてんの!?白状しなさい金田一、先輩の言うことが聞けないの!?」
「及川さんだから聞けないんです!」
「ついに金田一までも及川さんに暴言吐くとは!?」
我ながらいつにも増して及川さんから逃げようとしてるのは、本能で身の危険を察知したからだろうな…。
どうにかすぐ試合になってこれ以上の追求はなかったけど、部活終わった後とか、部室でまた聞かれんだろうな。ついでに花巻さんと松川さんも加わるのは確実。そしてこんな時の国見は当てにならない。
練習が終わって片付けながらこの後の対策を練っていると、女子の声が響いた。
「松川ー!」
及川さんなら慣れているが、松川さんが呼ばれるのは初めてで、部員がそちらに向いた。
「あ…」
松川さんを呼んだ女生徒の隣に、会いたかった人が立っていた。ビックリしたけど、ここで動揺してはいけない。動揺したら色々バレる。
「なんだよ珍しいな」
「教室に財布忘れてたから届けに来てあげたのに頭が高いぞ松川」
「ドウモアリガトウゴザイマシタ」
態とらしく深々と頭を下げる松川さんの意外な一面を見た。
「で、みょうじも付き添い?」
「あ、そうだなまえの探してる人どの人?」
あの人みょうじなまえさん?ていうのか。はじめて知った。