銀魂

□夏の名前@
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足が取れるんじゃないかと思うほどに全速力で走った。
遠くに見える、俯く彼女を大声で呼ぶと、ゆっくり振り返って驚きで目を大きくしてこっちを見据えた。
「なんで……?」
肩で息をしている俺に、こいつは泣きそうな顔で声をかけた。
ふっと短く息を吐き出して呼吸を整えると、俺は口を開いた。
「――――」
ふわっと一陣の風が彼女の桃色の髪を攫った。






あいつが転校してきたのは中学一年生の夏休みのとき。
中国だかなんだかからの留学らしく、訛りなのかキャラ作りなのかわからない特徴的なしゃべり方が気になったものの、別段関わり合いがあったわけじゃない。
そんなあいつと初めてまともに話したのは二年にあがってすぐのことだった。
委員会決めで珍しくジャンケンに負けた俺は、あいつと同じ自治委員、つまりクラスをまとめる委員になってしまった。
「私、神楽アル」
「あー、うん知ってる」
その日の放課後、いきなり委員会があるとかで呼び出されたが、めんどくさいから押しつけて帰ろうかと思ったら手首掴まれて自己紹介された。
「え?なんで知ってるアルか?」
こいつは底なしの馬鹿なんだろうか?昨年度、半年とはいえ同じクラスのやつの顔と名前をどうして憶えてないわけがあるだろう。
「去年おんなじクラスだったんだから覚えてるに決まってんだろィ」
「ほら、私あんまりお前と関わってなかったし、なによりお前馬鹿そうだし。よく覚えてたアルな!」
カチンときた。っていうか来ない方がおかしい。
「なにが馬鹿だ。お前こそ人の名前覚えてなさそーだよな。なんせアルアル言ってキャラ作ってるぐらいの馬鹿だし」
言われたら言い返す。当たり前だ。これで言い返してこないならそれでいいし、やりかえしてくるなら丸め込むだけ。俺にはその自信があった。
「なにが馬鹿アルか!」
流石に蹴りいれられたのは予想外だった。しかも向こう脛。
「てめっ……」
そっからはもう子供の喧嘩。あいつ女のくせに力強いしこっちも本気でやりかえす。まあ別にもともと女子供だからって容赦とかしねーけど。
それでお互い委員会のこと忘れて、もちろん担当の先生には怒られた。
この一件であいつの印象は、変なしゃべり方する同級生から最悪の暴力女に急降下。
そう最悪だったはずなのに。
人間は本当に不思議なもんだと思う。
何故って言われると自分でもよくわからないけど、委員会の時だけいがみ合ってたのが、だんだん休み時間にもどつきあったり、家が同じ方向なのを知ってからは口喧嘩しながら一緒に帰ってた。
そこまできてやっと自分は彼女のことが好きだってことに気が付いた。
青春らしく悶々と悩んでみたりしたけど、結局短絡的な自分は言うだけ言ってみることにした。
多分断られるかなーなんて正直思ってて。なんせ最初は俺も好きじゃなかったわけだし。
でも本当に嫌いなら俺のこと無視するんじゃないか、なんて期待もしてみて。
結果は、
「そんなに私のことが好きなら付き合ってやるヨ」
なんつー上から目線。それでも舞い上がるようなこの気分はきっと惚れた弱みなんだろう。
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