□続、小さな小さな天使
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恋次が暫く小さなルキアと一緒に遊んで、いや駄弁っているに近いか、とにかく時間を潰していると、それまで黙々と手を動かしていた白哉が突然立ち上がった。
「もしかしてもう仕事終わったんスか?」
「とりあえず今日中に必要なものは。あとは他の隊長の認可が必要なもの故届けてくる」
時間はまだ昼真っ盛りというところか。
自分がやるより早いような気がして少し恋次は落ち込んだ。
「すぐに戻ってくる。ルキアと待っていろ」
そう言って白哉は分厚い紙の束を持つと、音も立てずに出て行った。
白哉が扉を閉じたのを何の気無しに見て、ああそういえばもう少しで子供ならおやつの時間じゃないか、ルキアは腹が減らないのだろうかなどと考えながらルキアに向かい直ると、それまでずっと楽しそうな笑顔を浮かべていたルキアが俯いていた。
「どうしたルキア?腹でも痛いか?」
心配になってルキアに声をかけると、首をブンブンと勢いよく左右に振る。ならばいったいどうしたと言うのだろうか。
相変わらず俯いているせいで表情がよくわからない。
何か自分が悪いことでもしただろうか。全く思い当たる節はないが。
もう一回ルキアに呼びかけてみた。
ルキアは恋次の声に反応して今度は顔をあげる。
その顔は、大きな目いっぱいに涙を溜めて今にも泣きそうになっていた。……泣きそう?
「しまった!忘れてた」
この小さなルキアは見た目よりも大人びている。
だから記憶がすっかり忘却の彼方へいってしまったのだ。
そして仕事に集中していた白哉も多分また。
慌ててルキアを抱き上げて白哉を追う。
ルキアの涙は今にも決壊しそうだ。まずい。
何がまずいってこんなところで大泣きされたら、白哉の子供を攫った誘拐野郎に間違われかねない。
隊舎の出入り口の方へ焦って走って行くと、丁度正面玄関で白哉の後姿を見つけた。
まだルキアはなんとか泣き出していない。セーフだ、セーフ。
しかし無駄に白哉の足が速くて困る。
「隊長!」
後ろから大声で呼びかけるとゆっくりと白哉が振り返った。
「何かあったのか?」
「離れないでください」
慌てすぎて変なことを口走った気がする。
白哉は盛大な勘違いをしたようだ。現に一歩後ずさった。
「じゃなくて、ルキアが泣き出すんでルキアから離れないで下さい」
「ああ、う、うむ。そうだな。忘れていた……」
やはりそうだったか。
ルキアを下ろしてやると、一目散に白哉のところに駆け寄っていった。
一体何故そんなに、現在の記憶がほとんど無いルキアが白哉に拘るのだろう。
皆目見当がつかないが、とにかく今のルキアは白哉の足元にぴったりとくっついている。
このままでは動けず困却した白哉が抱き上げようと一度しゃがみ込んだが、持っている分厚い書類のせいで上手くいかず、そのまま立ち上がった。
「二番隊と十三番隊の所へ向かう。恋次、ルキアを連れてついてこい」
「わかりました」
ルキアを抱き上げると、意外にも素直に応じた。
涙はもう止まっている。元々流していたわけではないが。
白哉の近くにいることが出来ればそれでいいのだろう。
「よくわかんねーな」
恋次はひとりごちて、足早に隊舎を出て行く白哉の後を追った。
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