□形、証
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夏の午後、六番隊が瀞霊廷内で警護巡回をする時間が近くなっても、珍しく持ち場に白哉が現れない。
もしかしたら忘れているのではないか、と心配になった恋次は朽木邸を訪れた。
見慣れた大きな迫力のある門の近くに、見慣れない赤い着物が立っているのが目に入る。
「どうしたのだ、恋次?」
「ルキア」
互いが視認できるところまで近づくと、今日は非番でいつもの死魄装ではなく、普段の着物を着ていたルキアが声をかけてきた。
元々庭にいたのか、どうやら近づいてくる恋次の霊圧を察して出てきたらしい。
軽く駆け足でルキアに近づき、そばに立つと恋次は口を開いた。
「朽木隊長探しにきたんだけどよ、隊長いるか?」
「兄様を?兄様ならまだ中にいらっしゃるぞ。何か大切な話をなさっていたようだが、もうすぐ終わると思う」
「そうか……。じゃあ少し待つか」
朽木邸の門を背にして立っているルキアの後ろには、広大な庭が続いているだけで、白哉の姿はまだ見えない。
一瞬会話がとまると、ルキアは恋次の真正面に立った。
「ところで恋次、何か気が付かないか?」
自分をよく見せるかのように、腕を開いてルキアはその場でくるりと回る。
確かに言われてみれば違和感があるような気がして、やや不躾ではあるが恋次はルキアをしげしげと眺めた。
「あ、髪」
ようやく気が付いた恋次が呟くように言うと、ルキアは大仰に頷いた。
「どうだ恋次、髪を切ってみたのだ」
うれしそうにルキアは髪を梳くっては落とす。黒髪がさらさらとなびいた。
「あー、おう、いいんじゃねーか?」
「なんだその適当な返事は」
髪を梳いていた手を下ろして、ルキアは腕を組んだ。
「いやいや、いいんじゃねーの。本当に」
取り繕うように恋次が言うと、ルキアとは反対に無意識に頭に手を当てる。
長くなった赤い髪が指先に引っかかった。
「それより」
恋次は自分より随分小さな彼女を見下ろした。
彼女はまだ不服そうな顔をして、恋次を睨むように見上げている。
「なんで髪切ったんだよ?」
「そうだな……」
ルキアは一瞬思案するように目を泳がせると、腕を解いてもう一度恋次を見上げた。
「形にこだわる必要はないと思ったからだ」
そういうと本当に口元だけで小さくルキアは笑う。
その姿から、決して悪い意味で切ったわけではないことを察した恋次は、そうかとだけ返事をした。
「お前は髪が伸びたな」
恋次が無意識に当てていた手に気が付き、追う様にルキアは視線を向けた。
「まーな。最近忙しくてよ。切ってる暇もねーんだよ」
「大変だな。……だがまあお前の髪は嫌いではないぞ」
副隊長になるとはそういうことなのだろう。特にあの混乱があった後だ。
気を引き締める思いで考えていたルキアの後ろから声が響いた。
「そこで何をしている?」
二人とも会話に夢中で全く気がつかなかったが、庭からゆっくりと白哉が近づいてきた。どうやら大事な話とやらは済んだらしい。
一瞬驚いたものの、すぐに目的を思い出して恋次は口を開いた。
「隊長が全然来ないから忘れたのかと思ってきたんスよ」
「警護巡回か。私が忘れると思うか?」
「いや……」
忘れたと思ったからここまできたのだが、事実忘れるとは思えなかったので、結局煮え切らない返事になってしまった。
白哉は二人の隣にまでくると、ルキアを一瞬見てから、ゆくぞとだけ言ってさっさと歩き出した。
置いていかれそうになった恋次が慌ててあとを追いかける。
「頑張ってこーい」
ルキアが後ろから手を振りながら軽い口調で言った。
「おう。じゃーな」
恋次も振り返り手を振りかえしつつ答える。
二人が一番近くの角を曲がるのを見届けると、ルキアは屋敷に戻った。
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