□六番隊編
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正直誰もここまでうまくいくとは思わなかっただろう。
ルキアは足早に歩きながら、ほくそ笑んだ。
「総隊長も出演させるから、ほかの隊長たちもCDに出させてくれ」
そのようなことを乱菊は言ったらしい。
総隊長はノリノリでほかの隊長たちにその旨を(ただし女性死神協会がかかわっていることは内密に)報告してくれたようだ。
総隊長命令では誰も逆らえない。あの反乱で隊長が空席となった三番隊、五番隊、九番隊、それに任務で現世に長期滞在している八番隊以外は強制参加となった。
曲は七緒、乱菊が中心になり決めた。
現世では死神たちの活躍を描いた漫画なるものがあると以前七緒が言っていたが、さらにそれを中心にしたアニメなるものがやっているらしく、その主題歌を歌うというのがいいだろうということになったのだ。
また浦原も特にいやな顔せずに機材その他を提供してくれた。
流石に謎の地下の一画をレコーディングルームとして改造したのには驚いたが。

そういうわけで順々に録音が始まったのだが、最初は仕事の関係上六番隊からだった。
ルキアはてっきり白哉一人で歌うと思っていたのだが、聞けば恋次も一緒に歌うらしい。
幼馴染をからかうのと、歌を撮るというのがどのようなものなのか下調べに、空いた時間を使って現世に来た。
「恋次!」
「うお!ルキア」
ルキアは勢いよく扉を開けた。突然訪ねたのだからまあ驚くだろう。それにしても読んでいた歌詞が書いてあるのであろう紙を落とすとは、緊張していたようだ。
「何してんだお前こんなところで」
「仕事が早く片付いてな。お前の歌を聞きにと思って」
恋次が座っていた長椅子にルキアも腰をおろした。
「ご苦労なこったな」
「子供のころはひどかったからなー」
「てっめ、なんだと?」
「ああそれにレコーディングルームと言ったか、を見ておきたかったのだ」
ひとしきり幼馴染をからかったところで、ルキアは周りを見回す。
このレコーディングルームはルキアたちが今いるところと、ガラスでさえぎられたもう一つの部屋がある。
こちら側には全く何に使うのか想像できない機械がたくさん置いてあって、あちらにはマイクと楽譜を置く台などがおいてあった。
「すげえもんだよなー。こんなんで歌が撮れるなんてよ」
「そうだな。で、恋次はもう歌ったのか?」
恋次は首を横に振る。
「いや、まだ。隊長が先だってよ」
「兄様が?そういえば兄様はどちらに?」
「上で浦原さんと話してる。機械の使い方とか教えてもらってんじゃねーの。ていうか会わなかったか?」
「いや…勝手に入ってきたからなあ」
恋次があきれた目でルキアのことをみる。だがルキアはどこ吹く風だ。恋次がため息をつこうとしたとき、扉が開いて浦原が入ってきた。
「おや?朽木サンじゃないですか」
いつもの表情を崩さずもほんの少し驚いたような様子でルキアを見る。
それは後から続いて入ってきた白哉も同じだったようだ。
「ルキア?」
少しだけ驚いた顔でルキアを見た。
「何故ここに?」
「はい、仕事が終わりましたので失礼を承知で…」
「そうか」
短い会話だが言いたいことは伝わったらしい。白哉は視線を外して浦原のことを見る。
「じゃあお願いします」
白哉はわかったというと、浦原に促されて隣の部屋に入っていく。
浦原はこちら側の部屋の、よくわからない機械の前に座る。準備があるようだ、まだ始まる様子は無かった。
「そういえばよ」
ルキアが興味深々に浦原の手元を見ていると、恋次が突然声をかけた。
「お前、隊長が歌ってんの聞いたことあるか?」
唐突な質問に驚いたが、冷静に記憶を辿る。答えは
「ない」
冷静に考えなくてもあるはずがなかった。尸魂界にカラオケなどがあるわけないし、宴会にもほとんど出席しない。そもそも白哉が人前で歌うとも思えなかった。
「なんでそんなこと?」
「いや実はよ」
恋次が声のトーンをぐっと抑える。
「隊長、歌下手なんじゃないかと思って」
「は…?な、貴様なんて失礼なことを!」
「いやいやまてまて」
霊圧が急上昇するルキアに慌てて恋次が持っている紙を渡す。
「最初、俺はこの部分とラップとかいうのを歌うことになってたんだよ。隊長が早口は苦手だろうから」
「ああ」
「でも、この間サビも歌ってくれって言われたんだ。歌を歌うのは得意じゃないからって…」
ルキアにとってそれは衝撃だった。あの類稀なる芸術センスを持った義兄がまさか歌を苦手にしているとは思いもよらなかった。
「だからそのー…なんだ、隊長が本当に苦手ならその分俺が頑張るからよ。六番隊の威厳にかけても」
「ああ、そうしてくれ」
久しく聞いてないとは言え、恋次の歌唱力はそこまで酷いものじゃなかったはず。きっとなんとかなるだろう。
「!」
弾かれたようにルキアは立ち上がった。
「ど、どうしたルキア?」
自分にも苦手なものはある。そしてそのことを人に知られたり、見られたりするのは嬉しいとは言えない。
自分がここにいていいものだろうか。白哉にとって嬉しいことではないだろう。
「やはり私は帰…」
「それじゃ始めますよー」
ルキアが恋次を振り返って口を開くのと、浦原が合図を出すのはほぼ同時になった。
続いてピアノの音が流れる。あまりのタイミングに二人は固まってしまった。
ピアノの音が止まると同時に白哉が息を吸う。一拍あいた。

結果はご存知の通りである。





「なあ、恋次」
ルキアがずいと恋次に顔を寄せる。
「わかっているよな?」
「は…はい」
とでも答えなければ抜刀されそうな気迫があった。というより始開もしてないのに部屋の温度が急速に下がった気がする。
「貴様は副隊長だしな」
笑顔で言うとルキアは恋次のとなりに座り直した。
その後、恋次が手の空いた浦原にパートの変更を申し出たのはいうまでもない。
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