□アラシロイド2
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あれから季節をひとつ跨ぐぐらいの時間が過ぎた。
それも全てサトシ、ショウ、マサキ、カズナリのお蔭だ。
彼らは必死に頼みこんでくれたからだ。
ジュン一人で頼むならいざしらず、事務所でトップを誇る彼らがいるとなっては認めざるを得ない。
そうしてジュンは三ヶ月ばかり、当初の予定より長い猶予を貰った。
「あと一週間か……」
ジュンは誰に言うともなしに呟いた。
自分は自分のできることを精一杯やった。
端から見れば微々たる努力なのかも知れない。
それでも彼は自分らしくありつつ、かつ上を目指せるような方法ををずっと模索し続けた。
しかし結果は歌の仕事が数件きただけである。しかも世間の評価は不評。
いつものごとく滑舌や音程について手酷く言われている。
一つだけ発表されていない曲があるが、それは発表することすら放棄されたのかもしれない。
ジュンは苛立ちを吐き出すかのように、ポケットから乱暴に煙草を取り出した。
あの日吸って以降、一度も吸わずにずっと仕舞ってあった。
「もうしけってるかなあ……」
そう言って一本を半分だけ箱から抜いたところで思い止まった。
歌うものである限り喉は大切にするのが当然だ。
煙草なんてもってのほかである。
それでもジュンの手が結局上にあがっていったのは、残りの人生を好きに生きてもいいのではないかという思いからだった。
「ああ!ジュンいたいた〜」
「探しましたよ、ジュン」
ジュンが煙草を口にくわえようとした寸前で、大声で名前を呼ばれた。
慌ててポケットにものをつっこむ。
自分の好きに生きようという思いはどこへやら。
そんなことより彼らと気まずくなるほうが、ジュンにはよっぽど耐え難かった。
しかしそんなことを考えられるのもあと一週間。
余りにも短すぎる。
涙が滲みそうになるのを必死にこらえて、ジュンは笑顔で前から歩いてくる二人に手を降った。
「なんか用事かな?マサキ、カズナリ」
つられて、というよりかはいつも笑顔なマサキが興奮したようにジュンに駆け寄ってくる。
「うん。あのね、サトシとショウがね、こいって」
「へ?」
「サトシとショウが第二コンピュータ室にジュンを連れてこいっていうから迎えにきたんです」
あとからマイペースに追いついた二宮カズナリが説明を補足する。
珍しいことでもないので、ジュンはふーんとだけ言った。
「でもなんでそんな所に?」
「話があるみたいですよ」
「おれらもくわしくはしらないけど」
ドキッとした。
第二コンピューター室は場所も奥の方にあり不便で、設備も第一コンピューター室に負けるので、人がめったにこない。
そんなところに呼び出されるだなんてただ事ではない。
叱られる程度ならまだかわいいものだが、その先は……考えたくもなかった。
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