V
□不思議な女
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不思議な女
目の前で倒れた女。
その女は見て夜兎族じゃない、とすぐ解った。
夜兎族だったら常時傘を持ってるし、肌も白い。
けどこの女は肌は夜兎族より白くもないし傘も持ってない。
それに何より見たからに弱そうだ。
どうしようか、この女。
どちらかと言うと、このまま放置しておいてもいいし、殺してもいい。
だって俺には関係がないことだ。
野垂れ死にしようが全くと言ってもいい程どうでもいい。
でも俺はちょっとばかし、この女に興味が湧いている。
勿論ながら恋愛とかの類ではない。というか、年も離れているし、何より一目惚れとかは絶対に有り得ない。
俺が興味を持っているのは、何故夜兎族でもない奴が“ここ”に居るかだ。
“ここ”には夜兎族しか住んでいない星だ。
なのに普通の夜兎族でもない奴が住んで居るなんて可笑しいにも程がある。
確かに夜兎族と闘うためにわざわざ違う星からくる犬やら豚やら狼やらの天人は沢山来る。
だけどこんな如何にも弱そうな奴は初めてだ。もしかしたら見た目に寄らず強いのかもしれない。
よく人は見た目に寄らずって言うしね。そう考えたら俺の中にある獣がのた打ち回った。この女は俺より強いのだろうか。
俺もまだ小さいからそれ程強いって訳じゃないけど、きっとこの女には勝てる力は持っている。
俺だって夜兎族だしね。怪力に勝てる奴がいるのか見ものだ。
兎に角今はこの女をどうするかを考えなくてはいけない。
目が覚めたら一戦交わしてもらおうか。
自然に口角が上がる。
早く目が覚めないかな。
闘いたい。俺より強い奴と闘いたい。
まぁ、この女が強いって訳じゃないけど。
俺は小さい体で女の体を肩に担いだ。
すると女の体から体温が自身の体に伝わる。
それは異常じゃない程熱かった。よく見てみると顔は赤いし息も荒い。
まさか、風邪ひいた、とか?
そっと女のおでこに手を当ててみると、もの凄く熱かった。
そりゃあこんな土砂降りの雨の中傘もささずに居たら熱が出るに決まっている。
「………」
ならどうしてこの女はさっき倒れる前に笑ったんだろう。
こんな高い熱があるから苦しいはず。
もしかして、俺を心配させないため、とか?………まさか、ね。
というか、もしそうだったとしても俺はこれっぽっちも心配はしていない。
じっと肩にぐったりと倒れている女を見る。やっぱり苦しそうだ。
雨に打たれている所為でもあるのか熱も上昇しているような気がした。
片手に女、もう片手には自分の常時離さず持っている傘を持ちながら、俺は小さく溜息をついて足を進めた。
(………歩きにくい)