V

□恐怖心
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恐怖心




雨がざあざあと降っている。
体に冷たいそれが遠慮なく降り注ぐ。
辺りは血の臭いが満遍なく臭っており、ついつい顔を歪めてしまう。

どうやら私はまた元の世界には戻れず、違う場所へトリップしたらしい。
血の臭いがする、それだけで元の世界には戻れてないとわかる。


何故か戻れてない、というのに安心している自分がいる。
何でだろうか。
本当はここで安心なんかしたら駄目だ。
寧ろ悲しまなければならない。

やっぱり私はこの世界に馴染んでしまったのだろうか。
否、馴染んだのではない、依存してしまったのだ。

またこの世界に居れば銀時君達や松陽先生に会える、近藤さんやミツちゃん達ちも会える。
だから私は安心しきっているのだ。


あぁ、私は馬鹿だ。
元の世界に戻る運命だから依存なんかしちゃ駄目なのに。

本当……馬鹿だなぁ。

容赦なく降ってくる雨にあたりながら、私は空を見上げた。

見上げた空はこれでもか、という程の曇天で、曇り空が満遍なく広がっている。
そのせいか、辺りを見渡せば辺りもうっすらと暗い。
人影も少なく、ただ血の臭いが漂うだけ。



「……っ…」



途端に頭に激痛が走った。
きっとこの臭いのせいだろう。
血の臭いなど嗅いだこともないから慣れていないからだ。

否、慣れててもあれなんだけど…。

頭を抑えながら私はフラつく足取りで立ち上がった。
兎に角今はここがどこかをはっきりとさせなくてはいけない。

雨に打たれながらゆっくりと足を進めた。

周りの建物は壊れているものもあり、空き地のようなものだらけだ。
所々に血が飛び散っており、また鼻を刺激させる。


本当にここはどこなのだろう。
もしかしたら“銀魂”の世界じゃない、違う世界かもしれない。
それか元の私の世界の紛争や戦争が激しい場所だったり。
そう考えた瞬間、思わず顔を青ざめた。

もしそれが現実となるのなら、私は一体どうなるのだろうか。

殺されるか、または奴隷か。

否、きっと“死”という道を歩むだろう。
また顔が一層青くなる。
体もカタカタと少しずつだが、揺れる感覚になる。



怖い、怖い、怖い。



私が武州でさらわれた時は今みたいに恐怖はあまりなかった。
寧ろ、トシや総悟や近藤さんが殺される恐怖の方が大きかった。
自分の所為で皆が殺される、傷つく。それだけが本当に怖かった。

だけど、今は違う。
今は自分が殺される、という恐怖が強い。
あぁ、今日は厄日だ。否、それ以上だ。

どうしてこんな場所にトリップなんかしたんだろう。
ここに私が知っている人は居るのか?
それとも私をトリップさせた人物はここで私に死ねとでも言っているのだろうか。

ふざけんな。

勝手にトリップさせて死ね?
寧ろこっちの台詞だ。
そのままバットでホームラン打ってそっくり返します。

………まぁ、私が死ぬと決まったわけじゃないけど。


はあ、と溜息をつき、フラフラとゆっくり歩かせていた足を止める。
そしてそのまま近くにあった路地裏に壁に寄し掛かりながらしゃがみ込んだ。
雨は一向に止まず、降り続いている。
降ってくる雨の所為で服が雨を吸い、今の心境のように重くなってきた。

やっぱり雨は嫌いだ。

足に顔をうずくませて、溢れ出る涙を流さぬようにと必死に堪える。


これからどうやって生きよう。
知り合いも居らず、それも血の臭いが満遍なく広がっている場所で1人で生きていける自信がない。

武州や長州に居た頃は心優しい松陽先生や、近藤さん達が私を住まわせてくれたから生きていけた。

でも今回はどうだろう。
起きてみれば辺りは血の臭いが充満しており、建物も壊れていて、人気も少ない。


誰 も い な い。


それがこんなに怖いだなんて思いにも寄らなかった。
トリップして目を覚ました時には必ず人が居た。

長州の時は銀時君達、武州の時は近藤さん。
今は私1人。

見渡しても誰もいない。
もしかしたらみんな死んでいるのかもしれない。
だからこんなにも血の臭いが充満しているのだろうか。

またさっきよりカタカタと体が恐怖と雨の冷たさの所為で震える。


弱い。
やっぱり私は弱い。
でも仕方がない、よね。

だってこれでも私も一般人だし、闘ったこともないし、血の臭いだってまともに嗅いだこともない。
平々凡々に生きてきたから仕方がないのだ。
こんな私に非平凡な過ごし方をしろ、と言われても無理だ。
否、現在進行形でトリップしているからある意味非平凡な生活は過ごしているのだが。

そう思っていたら途端に睡魔が襲ってきた。
きっと寒さの所為だろう。


やばい。
流石にここで寝てしまう訳にはいかない。
もし此処で寝てしまったら起きれる自信がない。
凍死してしまうかもしれない。

あぁ、駄目だ。瞼が重いし、視界がぼやけてきた。


必死に目を開けようとしても中々体は言うことを訊かない。
壁に寄りかかっていた体が地面へと倒れた。
すると同時に雨が急に降ってこなくなった。
何故急に降ってこなくなったのか不思議に重い、ぼやつく視界で力を絞り、目を開いた。



「お姉さん、大丈夫?」



視界に入ったのは、傘を持ったオレンジ色の髪をした小さな少年だった。

良かった、人が居た…。

ただそれだけが嬉しくて、私は誰だから解らない少年に微笑んで意識を飛ばした。





(私…どうなるのかな)
 

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