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□矛盾する気持ち
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矛盾する気持ち
これでみんなと離れるのは二回目。
いや、正確に言うと三回だろうか。
何気に優しかった元の世界のみんな、いつも笑顔で私を心配させないようにしていた村塾の子供達と松陽先生、困った時はすぐに助けてくれ、優しくしてくれた道場の人達。
私はこんなに優しくしてもらった人達から数ヶ月で離れていった。
御礼もまだ何もしてない。
したくても出来ない。
それが今の私。
もう会えないのかな。
また前みたいに笑いあえないのかな。
料理をしたり、お散歩したり、喧嘩したり、笑ったり、泣いたり、怒ったり、もう本当にみんなと出来ないの?
前の世界のみんなとはきっと出来るだろう。
だってそこが私の“帰る場所”なのだから。
でも、長州や武州などの場所は違う。
そこは私がいた世界にある地域名にはない。
その地域名はもっと昔の地域名。
でも彼らの居場所の地域名は違う世界のだ。
私が生きてきた世界にあった地域名じゃない。
違う世界の地域名─…。
もし私が生きてきた世界の昔の場所でも絶対に会えない。
あぁ、世界が憎い。
また私を1人にする。
暗い、暗い空間に1人ぽつんと残してまたどこか違う世界(場所)に飛ばしてしまう。
何を望んでいるのかだって考えても思いつかない。
私が軽い気持ちで非平凡な暮らしをしてみたいって望んだ罰なの?
それなら世界に何人ともいる。
じゃあ何で私なの。
私は何もしてないよ?
あの日、トリップする前に羨ましいだなんて思わなければよかったの?
もしそうならそんなこと思わなければよかった。
1人でトリップするのは辛い。
複数トリップならまだちょっと心強かったかもしれない。
だってそうでしょ?
誰だってみんな知り合いが1人でもいたら少しは安心するはず。
もし逆ハー狙いでトリップしたいと思ってトリップした人なら話は別だが。
少なくとも私は2人の方が安心する。
もう元の世界に戻りたい。
“銀魂”のことも忘れるくらい悲しい気持ちを癒やして普通に暮らしたい。
……けど本当は忘れたくなんかさらさらない。
でもそうしなきゃ私はきっと悲しみに溺れて前に進めないて思うんだ。
ずっと過去のことを引きずって前に行けない気がする。
いや、きっと行けないだろう。
これだけは確信出来る。
……でも、人間には絶対別れというものがあるものだ。
思い返せば小学校の時だって中学校の時だって何回も、何回も人と別れをした。
大好きな友達と別れては涙を流し、抱き合い、時が経てばそんなこともあったなー、だなんて人事のように思うようになる。
なら今回もそれと同じじゃないのか?
きっと別れたことは悲しくなくなっていくにきまっている。
前もそうだったんだ、今回もきっとそうだ。
あぁ、でもやっぱり私はみんなを忘れたくないな。
笑いあったことも、泣いたことも、お泊まりしたことも、竹刀をぶつけ合ったことも、全て。
全て忘れたくなんかない。
悲しくたってみんな全て大切な思い出。
なら私はどうすればいいの?
忘れたいと忘れたくないと矛盾しあうこの気持ちを私はどっちを取ればいいのだろう。
悲しさを乗り越えて生きていくか悲しさを抱えながら下を向いて生きていくか。
悲しさを乗り越えて生きていく方がかっこいいよね。
そうしたいのも山々だけど生憎私はそんなかっこいい人じゃない。
辛いことがあったらすぐ胸の奥に閉まって1人過去をずるずると引きずって醜く生きていく。
そんな私に正義のヒーローみたいに前向きには生きていけない。
ほら、こんなこと考えている間にまた暗い闇の中から小さな光が見えてきた。
次はどこに行くのだろう。
未だに過去を引きずっている私にまた“銀魂の世界”へと飛ばすのかな?
それなら私に辛い思いさせない場所に飛ばしてね。
あぁ、でも“銀魂の世界”でも辛い場所なんてないかもしれないね。
世界なんてどう変わったって人間がいる限り感情がある。
愛情もあれば嬉しさも、憎しみもある。
人間がいる限り辛い場所は存在するんだろう。
なら私は次行く場所には悲しみにあまり溢れない所に行きたいと願う。
つらい別れにならない場所に行きたいと願う。
私に拒否権なんかなくたってそれくらいは望ませてほしい。
私は暗闇の中にぽつんとある白い光に手を伸ばした。
あの光はまるで今の私みたいだ。
知ってはいるけどある意味知らない場所に1人飛ばされた私みたいに。
ふっと自然と笑みを作って私はその光に触れた。
すると光は急に暗闇を包むくらいに広がっていく。
私もこんな風に闇に負けないくらい強くなっていけるのかな。
そして過去のことを忘れていけるのかな?
そう思いながら目をそっと瞑る。
世界は私をどこに飛ばすのだろう?
(出来たら私はみんなと…銀時君や松陽先生やトシや総悟達みんなで笑える世界に行きたいな─…)