□反則だろ、それ
1ページ/1ページ

「よォ、ヅラァ。てめェが風邪引くなんざ珍しいな」
本当に珍しい。
生まれてから今まで生きてきて風邪なんてあまり引いたことがなかった。
それ故、桂は苦しんでいた。あまり風邪を引かないぶん免疫力がなく、他の人にとっては普通の風邪も桂にとってはインフルエンザにかかったときのような感じなのだ。

そして、もうひとつ珍しいことがあった。それは、銀時が一人で見舞いに来たことだった。

「銀時の方こそ、珍しいではないか。頭でも打ったのか?」

ボケてみるが桂はうまく笑顔をつくれない。
咳も乾いたようなのばかりして喉も痛く、言葉を発するのも辛い。

「るせェよ」
銀時は布団のとなりに座り、持ってきたビニール袋を膝の上に置き、なにかを探す。
「なんか甘ェもんでも食うか?」

プリンやゼリーやケーキやアイスやら色々買ってきたらしく、それらを袋からだし畳の上に並べる。

「…」
「どした、ヅラ。今日は見舞いに来たから金なんていらねェし、遠慮すんな」
今日ばかりは優しく接する。いくら銀時でも病人にああだこうだ言うような野暮な奴ではない。
無言で並べたものを見つめる桂。頬が赤くなっていて、ボーッとしていてなんだか不覚ながらも可愛いと一瞬思ってしまった。

「…蕎麦が食いたい」

布団で口を隠し、上目使いで見てくる桂に銀時は軽く突っ込んだ。

「フツーなら、ここに出てるもん言うよねェ?!」
そう言い返すと桂は小さく微笑んで「すまん」と言った。

銀時は立ち上がり台所へ移動する。

「柄でもねェ」
桂があんなことで謝るなんてな。ほんとに熱で頭やられたんじゃないかと心配する。
そして、そんな桂と話をしているとなんだか変な感じがしてなかなか向き合えない。

適当にあるもので蕎麦を作り、桂のもとへ持っていく。

「俺ァ、あんま料理しねーから味は保証できねェよ」
銀時の料理なんざ、お菓子作りくらいだろう。
桂の枕元に一度蕎麦を置き、ゆっくりと桂を起こす。

「いや、銀時が頑張って作ってくれたのだから、有り難くいただくとするか」

銀時が作った蕎麦をゆっくりと口に運ぶ。手が震えて、頬が赤くて髪が少し乱れていて、銀時はなぜだかドキリとする。

口に入れようとした瞬間、桂は荒々しく咳をした。
それと同時に手に持っていた箸を落とす。

咳をしていたので口をおおっていた手をとると、手には少し血がついていた。

「ヅラァ…!?大丈夫かっ…?」
背中をゆっくり擦ってくれる銀時に分からないよう、血の少しついた方の手を影で拭く。

「大丈夫だ。だが、銀時が作った蕎麦を落としてしまった」

残念そうな顔をして箸を拾おうとした桂の手を銀時は掴んだ。

「てめェ、無理すんな」

そう言うと手を離し、桂が落とした箸を拾う。

台所へいって洗おうと立ち上がると桂は銀時の裾を掴んだ。

「行かないでくれ」

可愛すぎる、桂がいつもと違うように見える。

何が『行かないでくれ』だ…。てめェ放っといてどこにいくんだよ。行くわけねェだろ。

捕まれた裾に視線をやりつつちらりと桂をみると桂はなにか少し焦っているように見えた。

「行かねェよ」

小さく銀時は呟くと、勢いよく桂に覆い被さる。

「こんな可愛い奴、放っておけるわけねーだろ」

桂はキョトンとした表情を見せる。そんな間抜けな顔も可愛いと思う。

そして病人構わず、銀時は桂の唇に触れるだけのキスをする。

何を思ったのだか桂はそれを拒む。
「どーした、風邪引いたんなら俺に移せば良いのに…」
少しイラッとする銀時は桂の耳元でポソッと呟いた。
すると、思ってもいなかった答えが帰ってきた。
「銀時だから移せないのだ。」
かわいい顔して可愛いこと言って、

「反則だろ、それ」

拒む桂の手を避ける。

「と…、言うことは、嫌じゃねーんだろ?」

桂は潤んだ瞳をして頷く。


そして二人は何度もキスをして愛し合った。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ