□暇つぶしの王子様
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「桂ァァァァァ!!!」
最近屯所にいることに飽き、江戸の町を散歩していたら、丁度桂小太郎を発見した。
暇を持て余していた総悟にはいい暇つぶしと思い、真昼の町中でバズーカを桂に向けて放ったのであった。

ひどくあがる砂ぼこりだが総悟は分かっていた。これほどのことで桂がつかまるわけがないという事を。

まだ少し視界がぼやける砂ぼこりの中、桂の姿を追いかける。

久々になまった体を動かせて楽しむ。

桂は桂でそそくさと逃げる。

「フハハ!!!この俺を捕まえられるというものか!」

一度後ろを振り向き、総悟に向かって言い放つ。
桂は調子に乗っていた。

そして何もないところでこける。後ろを向いて走っていたからだ。
桂の草履の鼻緒が切れてしまった。

「クソ…っ」
「桂ァァァ!!!もう逃げられねェですぜィ、観念しろ」

桂と総悟の距離は徐々に短くなっていく。総悟の表情はどこか楽しげで、ドSオーラをものすごく出していた。

必死に鼻緒をなおそうとしたが、やはりすぐには出来なかった。

鼻緒が切れた方の草履を脱ぎ棄てる。
片方は足袋のみで走る。

桂が脱ぎ残した草履を手に取り、にやりと笑う。総悟は桂の後姿を見て『何か』良い事を思いついたような表情をした。

桂は家の影に隠れる。
小さくため息を吐く。片方草履がない。もしこのまま片方無くして家へ戻るのなら、きっとすれ違う人たちに 変な風に思われるであろう。

桂はうつむく。

あの時、草履を置いてこなければ良かった。と少し後悔している。

「よォ、桂ァ」

気付いたころには遅かった。総悟は通路をふさいでいた。
後はコンクリートの壁、前には総悟。桂はついに、追い詰められてしまった。

「くッ…」

ゆっくり不吉な笑みを浮かべながら近づいてくる総悟。
その総悟から離れるように後ずさりをする桂。
だが、もう壁についてしまった。

「もう逃げられやせんぜェ、桂」
桂の歪む顔。その顔に子供らしい顔が徐々に近づいてくる。
可愛い顔をしてやること、言うことは鬼畜である。

「桂ァ、落し物はこれですかェ?」

鼻緒がなおった草履を差し出す。「けど」言いながら草履を懐に戻す。

「まだコレは返せやせんぜェ」

桂の顎をクイっとあげると、虫を見るような冷たい視線を浴びせる。

「ほんと、女見てェな顔しやがって」
「…」
「恐怖で歪ませた顔、たまんねェ…」

「貴様、武士を愚弄するのか!!」
怒りと恐怖が混ざりながらも総悟に反抗する。

「そう言っていられるのも今のうちでさァ」

そう言うと、桂の両手を握り強引に激しいキスをする。
全く読めないキスで、息継ぎの暇がなく、声が漏れる。

総悟の唇が離れ、二人の口は銀色の糸て繋がり、儚くもすぐにその糸は切れる。

「や、っやめろ」
桂は抵抗しようと手をあげるが気付かぬうちに手錠を掛けられていた。

「こうしてみてるとほんとにエロいなァ、桂」

耳元でささやかれ、ビクリと身体が跳ね上がる。心臓はもうはち切れんばかりに大きく鼓動を打ち鳴らす。

「嫌がってるその顔もまた、そそられる」

本当にコイツはドSだ 桂は思った。
けれど思った頃には遅かった。

またもや桂の唇に食いつき、息継ぎの難しいキスを続ける。
口の中は総悟の舌が暴れまくり、無理やり舌を絡ませて来たり、喉まで舌を伸ばしてきたり。


「やめてほしいなら、俺の犬になりやがれ」

きついキスが続いた後、桂は地べたに座り込む。腰が抜けてしまったようだった。
総悟は桂を冷たい目で見下し、フッと笑った。

「あ、あと手錠も外して欲しえりゃァ、俺のこと『好き』って言ってみろィ」

もう、どうしていいのか分からない。頭の中がぐちゃぐちゃになる。
荒い息をする桂にまた顔を近づける。何もしていなくてもその行動に桂はビクリと身体を強張らせる。
そして総悟は口を桂の耳元まで持っていかせ


「俺ァ、桂が好きですぜィ」


紅くなった桂の頬がもっと紅くなる。体温も上がり、頭がくらくらする。


総悟はふうと息を吐き、手錠を外す。
そして、草履をポンと投げて渡す。

「次会った時、俺達ァ、恋人だからな」

そうにっこりと言うと、頭をかいてきた道を引き返して行った。

桂は総悟から返された草履をみる。
鼻緒は綺麗に直っており、鼻緒の修復のために使った布は紺色の多分ハンカチであろう。

この草履を見たら少し、総悟が悪いやつなのか分からなくなってきた。

――…ただ単にドSなだけなのだろうか…

心が揺らぎ、空を仰いだ。

***

いい暇つぶしが出来た。桂はほんとに綺麗でいじめ甲斐があった。



ドSな王子様は思いながら、空を仰いだ。




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