Cloud Land
□第5話【石の足枷】
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リディアは、白い霧の中を歩いていた。
とろりとした霧に手を伸ばせば、乳白色がふわりとまとわりつく。
世界はどこまでと優しく、吸い込んだ空気さえもが、どこかあまやかに香りたつ。
「…ここ、どこだろ…」
ぽつり呟いて、くるりと視線を巡らす。
(…確か…"扉"を開けて…異世界に、行って…?)
思い出そうとしても、頭に霧がかかったように、何もかもが曖昧にぼやけて上手くいかない。
「──どうしたんだ、リディ。」
ふわりと響いたのは、呆れたような、皮肉るような…けれど誰よりも優しい"彼"の声。
はっと顔を上げると、大好きなその人が、少し先で微笑んでいた。
「ロイ!どうして君がここに…──まさか君も扉を!?」
「…何の話だ?」
怪訝そうな顔をすると、ロイは「それよりも、」とにっこり笑う。
「早く帰ろう、リディ。ヒューズが待っている。」
「─えっ?」
呆気に、とられた。
ヒューズは…私達の大切な"親友"は──
「死んだ、はずじゃ…」
ぼんやりと呟いたリディアに、ロイは今度こそ心底あきれ返った顔をした。
「リディ…前から言っているだろう、休むときはしっかり休め、と。疲れてるんだ。変な夢でもみたんじゃないのかね?」
────夢
…ああ、そうか、そうなのか。
ほっとすると同時に、安堵で涙がこぼれそうになった。
─ヒューズが死んだことも
─お父様を裏切ったことも
─異世界に飛ばされたことも
─ひとりぼっちになったことも
─ぜんぶぜんぶ、悪い夢だったのだ。
「ああ、そうだ。全部夢だったんだ。」
あやすようにそう言って、彼は「ほら、」と手を差し出した。
「─帰ろう、リディ。」
すがるように伸ばしたその手は──ふわりと、空を掴んだ。