Cloud Land

□第5話【石の足枷】
1ページ/11ページ






 
リディアは、白い霧の中を歩いていた。

とろりとした霧に手を伸ばせば、乳白色がふわりとまとわりつく。

世界はどこまでと優しく、吸い込んだ空気さえもが、どこかあまやかに香りたつ。




「…ここ、どこだろ…」




ぽつり呟いて、くるりと視線を巡らす。




(…確か…"扉"を開けて…異世界に、行って…?)



思い出そうとしても、頭に霧がかかったように、何もかもが曖昧にぼやけて上手くいかない。




「──どうしたんだ、リディ。」



ふわりと響いたのは、呆れたような、皮肉るような…けれど誰よりも優しい"彼"の声。

はっと顔を上げると、大好きなその人が、少し先で微笑んでいた。



「ロイ!どうして君がここに…──まさか君も扉を!?」

「…何の話だ?」



怪訝そうな顔をすると、ロイは「それよりも、」とにっこり笑う。



「早く帰ろう、リディ。ヒューズが待っている。」

「─えっ?」




呆気に、とられた。

ヒューズは…私達の大切な"親友"は──




「死んだ、はずじゃ…」


ぼんやりと呟いたリディアに、ロイは今度こそ心底あきれ返った顔をした。



「リディ…前から言っているだろう、休むときはしっかり休め、と。疲れてるんだ。変な夢でもみたんじゃないのかね?」






────夢






…ああ、そうか、そうなのか。



ほっとすると同時に、安堵で涙がこぼれそうになった。





─ヒューズが死んだことも

─お父様を裏切ったことも

─異世界に飛ばされたことも

─ひとりぼっちになったことも




─ぜんぶぜんぶ、悪い夢だったのだ。







「ああ、そうだ。全部夢だったんだ。」



あやすようにそう言って、彼は「ほら、」と手を差し出した。




「─帰ろう、リディ。」








すがるように伸ばしたその手は──ふわりと、空を掴んだ。




 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ