宝箱 《Glitter》

□密かな想い
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「どうしたの? アル」

いつものようにアルフォンスの身体を オイルで磨いていた水華は、彼がやたら 上機嫌な様子であることに気付いた。

彼 は「ああ」と発すると、そのままの調子で続けた。

「この前、ウインリィが僕の身体が元に 戻ったら、手作りのアップルパイ食べさ せてくれるって言ってたのを思い出して 、ちょっと楽しみだなぁって思ってたんだ」

「ふ〜ん……」

上機嫌なアルフォンスとは対照的に水 華はあまり興味の無さそうな返事をして みせる。

しかし、内心ではウインリィに 先を越されたような気がして水華は少し 悔しかった。

別にウインリィはアルフォ ンスが好きという訳では無いかもしれな いが、なんだか女として少し負けている ような気がすると感じる。

「? どうしたの? 水華」

「え? なに?」

「手が止まっていたから」と零したアルフォンスの言われるまま、水華は自分の 手元を見ると、布巾に染みたオイルが垂 れてしまっている。

それに気づいた水華 は慌てて別の空布巾と取り換える。

「ご、ごめん。アル」

「ううん。それはいいけど、何か悩み事 ? 僕でよかったら相談に乗るよ」

「――ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」

再び、布巾でアルフォンスの背中を拭 いていく。彼に聞こえないよう水華はぽ つりと呟いた。

「私だって、アルの為にアップルパイぐらい……」

「なに?」

不意にかけられたアルフォンスの声に 水華ははっと我に返り、再度なんでもないときっぱり言った。

彼は訝しげな様子 だったが、幸い先程の独り言は聞かれていないようだ。

ほっと密かに胸を撫で下 ろしながら、水華は作業の手を進める。

できれば、この想いがいつか彼に届きますようにと願いながら。




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