鋼短編 《Doze》

□恋は盲目
1ページ/3ページ







いつも通り、のはずだった






【恋は盲目】








「リディ、この書類なんだが……」


「ん?どこ?」



声をかければいつもと同じように返ってくる



「……あ、ここか……これは私も少し悩んだけど…ま、妥当だとは思うよ。」


「そうか。有難う」



書類を覗きこんだときに鼻先で香った柔らかなシャンプーの香り。

うん。距離感もいつも通りだ。




―――――――けれど



「ああそうだリディ、今日の夕食なのだが―――」


「ん?ロイに任せるよ。」


彼女はふんわりと微笑んで、踵を返す。


「……なぁリディ」


「ん?なぁに?」


「…いや、なんでもない。」





………やはり、そうだ。



今日は、一度も視線があっていない。

声をかけると振り返るし、呼べばやってくる。



――――しかし、彼女の青い瞳に自分はうつっていない。

偶然とかではなく、さりげなくではあるがこれは間違いなく故意にだ。




(私が何かしたのか……?)



そう思い考えてみるが、別段何かしたわけではない。



朝はいつも通り美味しくな…独特の風味のするコーヒー(?)をきちんと文句を言わずに飲み干したし、


出勤途中にネコに逃げられたとはいえ、それはいつものことだし、



特に機嫌が悪くなるようなことは―――あ!





「リディ、もしかして太ったのか!?」


「…ハゲろ、あほロイ。」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ