鋼短編 《Doze》
□恋は盲目
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いつも通り、のはずだった
【恋は盲目】
「リディ、この書類なんだが……」
「ん?どこ?」
声をかければいつもと同じように返ってくる
「……あ、ここか……これは私も少し悩んだけど…ま、妥当だとは思うよ。」
「そうか。有難う」
書類を覗きこんだときに鼻先で香った柔らかなシャンプーの香り。
うん。距離感もいつも通りだ。
―――――――けれど
「ああそうだリディ、今日の夕食なのだが―――」
「ん?ロイに任せるよ。」
彼女はふんわりと微笑んで、踵を返す。
「……なぁリディ」
「ん?なぁに?」
「…いや、なんでもない。」
………やはり、そうだ。
今日は、一度も視線があっていない。
声をかけると振り返るし、呼べばやってくる。
――――しかし、彼女の青い瞳に自分はうつっていない。
偶然とかではなく、さりげなくではあるがこれは間違いなく故意にだ。
(私が何かしたのか……?)
そう思い考えてみるが、別段何かしたわけではない。
朝はいつも通り美味しくな…独特の風味のするコーヒー(?)をきちんと文句を言わずに飲み干したし、
出勤途中にネコに逃げられたとはいえ、それはいつものことだし、
特に機嫌が悪くなるようなことは―――あ!
「リディ、もしかして太ったのか!?」
「…ハゲろ、あほロイ。」