鋼長編 《If rain stops》
□第二章【アイスクリーム】
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イーストシティ駅構内
込み合った改札から少し離れたところに立っていると、不意に後ろからのびた手がリディアの目を覆った。
真っ暗になった視界にリディアは一瞬体を強張らせたが、覚えのある香りに緊張をゆるめると、あきれたように軽くその手を叩く。
「もー……はいはい、おはようヒューズ。」
振り返った先にいたヒューズから向けられたわざとらしい驚愕の表情に「何?」と聞くと、ややあって彼は口元をニヤリと緩めた。
「いや…てっきり手を刺されるか食いちぎられるぐらいは覚悟してたからな。」
「……君さ、私をいったい何だと思ってるの?」
そう言って見上げるとすでにヒューズの視線は周囲へと巡らされている。
「なぁリディ、エドワード達が見当たらないが…どこいったんだ?」
「聞こうよ人の話。……エドは切符買いにいってくれてて、アームストロング少佐はアルを車両に積み込んでる。でもって私はアイスクリーム係。」
そう言うリディアの手にはアイスの箱が二つぶら下がっている。
人数に対して明らかに大きすぎる箱には突っ込まない。
華奢な外見に反して昔から人一倍よく食べるやつだということは、この長い付き合いでよく知っていた。
「そういや昔っからアイスクリーム好きだよな。またストロベリーか?」
「もちろん!あとチョコミントとバナナと、カフェラテ。《まっちゃ》フレーバーも買ってみたよ。」
それからー、と、次々出てくるアイスに苦笑いしつつ、リディの顔を眺める。
(昔は、こんな顔しなかったよなぁ…)
いつでも一歩引いたところから冷たく人を眺めていた、年下の親友。
『────人は、嫌いだ。』
…いつのまに、彼女はこんなに明るく笑えるようになっていたのだろうか。
「─────ヒューズ、聞いてる?」
「…おお悪ぃ!聞いてなかった!」
「は!?」
「あっはは!怒んなって。ほら、エドワード来たぞ?」
「あ!ほんとだ!!エドー!!」
駆け出した少女の後ろ姿に顔をほころばせ、ヒューズはゆっくりとリディアの後を追った。